ずいぶん先の話だろうと思っていた2020年東京オリンピック・パラリンピックだが、先日、幸運にもチケット当選通知メールを受け取り、本当に「その日」が近づいてきたという不思議な気持ちになった。そんな個人のささやかな喜びをはるかに超える熱い期待が2020年に向けた観光振興の流れを加速させている印象を受ける。2020年に向け、ITやAIなどの最先端技術を駆使した外国人観光客向けのさまざまなハード面での施策が展開されると聞いている。たしかに、技術の進歩発展は社会の必然であるが、その一方、以前より不便を強いられている人々がいることも事実である。
たとえば、旅行業界のIT化により、町中の旅行会社カウンターは減少し、その結果、かつてはカウンター担当者に相談しながら、乗車券や航空券、旅行商品を購入していた高齢者や障害者など、観光・旅行にサポートを必要としていた人々がその頼るすべを失い、不便を強いられているというケースである。また、システム刷新による業務効率化推進によって、サービス現場では配置人員減による担当者への業務負担増をもたらしていることも事実である。
このような話を聞くたび、この機会に観光における福祉的対応を考えるべきではないか、そんな問題意識を持つのである。このような福祉的対応について、長年、高い評価を得ているのが航空会社のさまざまなサポートであり、重要な役割を果たしているのが、皮肉にもネット予約の普及により規模縮小傾向にあるコールセンターである。オペレーターは利用者との何気ないやり取りを通じて、必要と思われるさまざまなサポートを提案し、必要に応じて、空港や客室との情報共有を行うことで利用者のより快適な空の旅のお手伝いをしている。ネット予約でもサポート申込みが可能な場合もあるが、細やかな事前手配が必要な場合や利用者本人がサポートの必要性に気づいていない場合も多い。もちろん、オペレーターも十人十色であり、単なる予約記録を作成するアプリと同水準のオペレーターの存在も否定できないが、利用者との対話を進めながら、相手の要望以上の付加価値を生み出すオペレーターはまさしく航空会社の宝なのである。
また、空港スタッフもチェックイン時の会話を通じて、サポートが必要と判断された場合にはたとえ予約記録にそのような情報が含まれていなくても、どのようなサポートが必要なのかを提案し、必要に応じて、関連部署を含めたフォローを行っている。この時に求められるのは、目の前の「お客様」に向き合い、その心に寄り添いながら、最善を尽くすことである。
いずれの場面も、何も問題がなければ、アプリで予約・発券し、そのまま搭乗ゲートを通過すれば、万事終了である。しかし、この世の中、現場で問題は発生するのである。それは航空だけでなく、観光の現場も同じであり、特に福祉的対応が必要な場合には細心の注意が必要である。そして、その場での「お客様」の問題を最終的に解決できるのはアプリやシステムではなく、現場スタッフであり、ひとりひとりの人間力が試されることを忘れてはならない。人間は誇れる自らの経験と知識、創造力と解決力、そして寄り添う心を十分に秘めており、その活かし方次第では、観光の現場において、アプリよりも「お客様」のトラブルを解消し、信頼回復に結びつける技術はまだ人間の方が優れていると言える。その点において、観光の福祉的対応の未来はITと真逆の超アナログかもしれないが、それこそが可能性であり、また誇りでもある。