【観光復活の論点】中小旅行業の再生 日本旅行業協会(JATA)副会長 原 優二氏


原氏

旅づくり追及こそ存在意義 ツアーの高付加価値化へ

 ――日本旅行業協会(JATA)の会員には、海外旅行を中心に取り扱う中小規模の旅行会社が多い。原副会長の会社もそうだと思うが、水際対策の緩和を受けて明るさは出てきたか。

 海外旅行の回復に期待しているが、なかなか思うようにいかない。2022年度の下期の販売は、コロナ前の2019年比で3割、4割ぐらいには戻ると期待したが、そこまで回復していないのが現状だ。要因には、円安、燃油サーチャージの高騰に加え、従来のようには航空運賃にIT運賃(包括旅行運賃)が設定されず旅行代金が高くなってしまうなど、いろいろな背景があるが、一番の要因は、お客さまの間に「海外旅行はもう少し先」という意識があるためではないかと思う。

 ――海外旅行が実質なくなったコロナ禍の3年は相当に厳しかったのではないか。

 コロナが始まった当初、ある程度は覚悟したが、まさか3年も続くとは思わなかった。長期化を予想する専門家もいたが、そんな絶望的な予想を受け入れたくなかったというのが実際だ。売り上げが立たなくても、固定費のキャッシュアウトは日々続く。雇用調整助成金がなければ、どうにもならなかった。これまで取り扱っていなかった国内旅行の分野に挑戦した海外旅行専門の会社もあるが、すぐに収益が上がるわけではない。手持ちの資金が潤沢な会社はいいが、そんな会社は少ない。借入金で持たせてきたが、その返済も始まっている。海外旅行の需要回復と、雇調金の特例措置の終了、借入金の返済開始、これらのタイミングがうまくかみ合えばいいが、海外旅行需要の戻りが遅いのが厳しい。

 ――コロナ禍からのリ・スタートの課題は。

 一番の課題は、旅行会社、旅行業界を担う人材が大きく毀損(きそん)したことだ。若い人を中心に他の業界へ転職してしまうケースが多かった。海外のランドオペレーターなどにも同様の状況がある。2、3年かけて人を育てられる状況ならいいが、コロナ禍からの復活のためには、すぐに収益を上げられる即戦力が求められる。特に中小の旅行会社は人が全てだ。人材がいないとどうにもならない。中長期的にも、旅行業はリスクが大きい産業と認識されてしまうと、今後、他の業界を選択する人が増えるかもしれない。もう一つの大きな課題は、コロナ禍の3年間、団塊世代の旅行需要を取り込めなかったことだ。経済的にも、時間的にも余裕がある団塊世代への期待は大きいが、75歳を過ぎると海外旅行に出掛ける人はどうしても減ってしまう。海外旅行市場にとってこの3年の損失は痛い。2025年問題が一気にせまってきた感がある。

 ――コロナ禍を経て、中小規模の旅行会社は今後どのような方向に進むべきか。

 旅行業界では、店舗やカウンターの合理化、対面販売やパンフレット販売からダイナミックパッケージへなど、オンライン化に伴う動きが一足飛びに進んだ。しかし、これらの根幹にある課題はコロナ以前から抱えていたものだ。中小の旅行会社について言えば、コロナでかえって存在意義が明確になったと考えている。旅行以外の事業領域に進むというのなら別だが、中小の旅行会社は、目の前のリアルなお客さまを相手にツアーをつくる、または、旅行を手配するというのが仕事で、本来あるべきところの旅づくりを追求していくしかない。OTAや素材だけの販売にはない、オリジナリティーにあふれる高付加価値なパッケージツアーをつくる。旅行会社によって手法はさまざまだが、旅を“創造する”ことが付加価値を生む。少し高い代金を払ってでも、この会社のツアーに行きたいと思わせる期待感が大事だ。私は、「ツアーの行間設計」と言っているが、単に素材を組み合わせるだけではなく、パンフレットや行程表には表れないツアーの行間に価値やブランド力を持たせられるかが重要だと考えている。もちろん、パッケージツアーの造成、販売だけでなく、お客さまの要望に対して付加価値の高い提案をしながら旅行を手配するというのも顧客密着型の本来あるべき旅行会社の姿だ。しばらくは厳しい状況が続くが、中小の旅行会社には、このコロナの危機を乗り切れば、大きなチャンスがあるはずだ。

 ――これから旅行業を立ち上げよう、旅行業界に入ろうという人に言葉をかけるとしたら。

 日本は観光立国の実現を掲げて、インバウンドを推進している。地方創生、地域活性化への貢献という観点から、日本の魅力、地域の魅力を再発見し、海外に発信して訪日旅行を楽しんでもらう、そうした仕事にやりがいやチャンスを見いだす若い人たちが増えてきた。旅行業であるかは別にして、そこには大いに可能性があるので応援していきたい。もちろん世界や国際交流に目を向けながら、旅行会社で一緒にツアーをつくる仕事をしてくれる若い人が増えてくれれば本当にうれしい。私の願いではあるが、リアルな中小の旅行会社に飛び込んで、旅行のつくり方をおぼえ、できればいつかは独立し、自分の好きなテーマでツアーをつくっていく、そんな挑戦に期待している。われわれ旅行会社の側も、そうした人を育てられる環境をつくっていけるようにしたい。

 はら・ゆうじ 1991年に風の旅行社を設立、代表取締役に就任、現在に至る。2012年に日本旅行業協会(JATA)理事、21年に副会長。66歳。
【聞き手・向野悟】

 

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