北海道150年、これからの発展戦略
2018年は、蝦夷地が北海道と命名されて150年となる。北海道では、これまでの歴史や文化、先人の偉業を振り返り、未来につなぐ節目の年とするため、道民一体となってさまざまな記念事業の取り組みを進めている。そこで、高橋はるみ北海道知事に北海道命名150年の意義とこれからの北海道の発展戦略、国内外への売り込みに力を入れる食や観光への取り組みを聞いた。
──今年は北海道命名150年ということですが。
全国的には、明治150年の節目ということで盛り上がっているが、私どもは、北海道命名150年にこだわって全国に発信していきたい。
北海道の150年というのは、松浦武四郎という方が江戸末期に蝦夷地をくまなく調査し、最初は本人の意思であったが、後に幕府の命を受けて調査を行い、1869(明治2)年に蝦夷地に代わる六つの名称を明治政府に提案。それを受けて太政官布告により「北海道」と命名された。それから今年で150年目ということである。
武四郎は、北海道の地図をまとめ、山や川、地名なども詳しく調べているが、彼の調査を支え協力したのはアイヌの人たちだった。アイヌの人たちと親しく付き合い、その生活の状況や本州にない珍しい動植物などを記録した野帳も残している。
北海道150年は、そうした150年以前のことにも目を向ける。そして、北海道の歴史や文化、今日の礎を作った人たちに感謝し、未来への展開につなげる、そういう節目にということである。
──「共生」「多様性」をキーワードにしていますが。
現代に生きる私どもは、民族の多様性というか、アイヌの人たちと和人が共に北海道の150年を築き上げてきた、そして、その礎を先住民族であるアイヌの人たちがつくってくれたということを改めて認識し、忘れてはならないと思う。
日本の歴史を見ると、縄文時代があり弥生時代にと続くが、北海道では、縄文から続縄文時代となり、そして、アイヌ文化の長い歴史があって、明治に入ってくるわけで、全国のどこにもない独特の歴史や文化を持っている。4期目の公約にも書かせていただいたが、北海道150年事業では、こうした歴史や文化、先人の努力をしっかりアピールするとともに、さまざまな多様性など未来志向に立った北海道づくりにつなげるものにしたいと考えている。
また、この多様性については、札幌市と冬季オリンピック・パラリンピックの誘致を進めているが、ここにも共通することである。1972年に札幌オリンピックを開催した時には、パラリンピックは開催されなかった。障がい者スポーツに対する意識が高まってきている中で、これらのことを踏まえた誘致を行っていきたい。それは、民族の違いや障がいの有無にかかわらず、多様性を容認する社会につながることだと考える。
道庁の赤レンガ庁舎前には、いつも世界からの人が来てにぎわい、いろんな言葉が飛び交っている。観光面からだけではなく、大変にありがたいことだと思っている。
私は、北海道の人も世界からの人も、みんなが心豊かに集える、輝く笑顔で生活できる、そして、交流できる、そういう北海道を道民みんなでつくっていくことができればと考えており、北海道150年がその節目の年となるよう頑張っていきたい。
──具体的な記念事業としてはどのようなものを。
各地域や企業、団体などの協力のもとにさまざまな記念事業を実施し、この1年を盛り上げることにしている。1~3月はキックオフ期間としてPRに力を注ぎ、7~8月の夏休み時期を「北海道150年ウイーク」に設定して、記念事業を集中的に展開する考えだ。
2月5日には、北海道にかかわる映画などに出演した俳優や歌手の方を招いた「キタデミー賞」という実行委員会主催の特別イベントを開催する。
北海道出身の歌手北島三郎さんや、「北の零年」や「北のカナリヤたち」などの映画で主演された女優の吉永小百合さん、映画監督の山田洋次さんなどに出席いただくことになっており、その皆さんには、北海道の盛り上げに大変貢献いただいたことから、感謝を込めて「キタデミー賞」を贈呈する。実行委員会では楽しいイベントにということでレッドカーペットの実施や北海道を代表する動植物にも賞を考えるなど、アイデアを凝らしている。また、8月5日には、各界の皆さんにご出席いただく記念式典も開催する。
私は、これからの30年、50年を見据えたときに、子どもたちの記憶に残り未来につながる事業が大事であることから、150年に協力する企業や団体の皆さんにも、できる限り子どもたちを対象とした事業をやろうとお願いしている。
──子どもたちの未来につながる事業ということですが。
例えば、北海道の名付け親である松浦武四郎は三重の人であり、初代開拓判官の島義勇は佐賀、第3代開拓長官の黒田清隆は鹿児島などと、開拓のスタート期には薩長土肥をはじめ各藩の方々にいろんな形でお世話になっているので、そうしたゆかりのある地域の子どもたちとの交流を行いたい。
また、欧米の学者や専門家の方々にも、大変お世話になった。アメリカからは、農務長官のホーレス・ケプロンやボーイズ・ビー・アンビシャスの言葉で知られるウイリャム・クラーク博士などマサチューセッツ州にゆかりのある人たちが多く来られている。その縁でマサチューセッツ工科大学(MIT)と北海道大学が交流しているので、MITの有名教授に来てもらい、子どもたちと北海道の未来を語る対話を行い、それを全道に発信することも考えたい。
さらに、今年は日ロ交流年である。安倍首相とプーチン大統領との首脳会談が重ねられる中で、領土問題解決への道筋を期待しているが、北海道はサハリン州や極東地域などロシアとの交流をどの都府県よりも積極的にやってきた地域である。特にサハリン州とは友好提携を結んで20年になり、知事同士の交流も頻繁に行ってきているので、これをベースにサハリンの子どもたちとの交流を実施したいと考えている。子ども時代に交流すれば、青年になり大人になってと、その交流が拡大していくことになる。そうした交流を通じての相互理解の増進が領土問題の解決や平和条約の締結など、国同士の関係にも大きな役割を果たすことにもなるので、未来につながる子どもたちの交流を積極的に進めていきたい。
インバウンドが好調な北海道観光(道庁赤レンガ前)
──人口減少時代を迎える中で北海道発展のビジョンは。
北海道も人口減少社会という現実が控えている。自然減と社会減で、北海道は2040年に450万~460万人に減るという予測がある。日本人口問題研究所の情報では450万人を下回るという結果も出されているので、各市町村とも連携して総力を挙げて地域振興、地域創成に取り組み、何とか2040年に450万~460万の人口を維持できるようにしたい。それでも現在の540万人からすると90万から80万人が減るというのが現実だ。そこで定住人口は減るが、北海道のその先の道へという思いの中で、私は、交流人口をもっともっと増やしていきたいと考えている。たとえ短期間のビジネスや観光で来られるだけの人たちであっても、訪れる人たちで常に笑顔があふれ、人のにぎわいがあるという、これからの20年、30年、次の200年に向けて、北海道をそういう地域にしていくのが夢だ。
──北海道経済や地域の活性化に向けて重点として進めている取り組みは。
観光と併せて、道産食品輸出1千億円のプロジェクトの推進だ。これは4期目の公約でもあるが、その規模が達成されつつあるので、さらに新しい目標を設定して、日本全体の輸出戦略にもしっかり貢献していきたいと考えている。
特に北海道の食は世界に通じるブランドであり、日本を代表するブランドであるので、海外市場への売り込みなど、観光と同時に食品に特化した取り組みを一層積極的に進めていく考えだ。
それから、アイヌ文化の発信である。その発信拠点となる民族共生象徴空間が2020年4月24日にオープンとなる。これは国が白老町に整備を進めている民族共生公園とその中核施設の関東より北で初の国立博物館となるアイヌ民族博物館で、建設工事も順調に進んでいる。アイヌの慰霊施設もできる。象徴空間は、年間100万人の来場者を目標としているので、それに足るだけの素晴らしい施設となるようハード面だけでなく、ソフト面も含めてご努力いただいているが、私どもとしても、国内外へのPRや誘客活動を積極的に展開し、アイヌ文化の発信をしっかりやっていきたいと考えている。
──北海道観光の状況はどうでしょうか。
全体的には、順調な状況にあると言えるが、インバウンドが好調な半面、国内客の横ばいが続いている。全国的な観光地間の競争も厳しくなってもきていることから、改めて官民一体となって主要地域への誘客活動に努めるとともに、広域観光周遊ルートや2次交通の整備、おもてなしの充実など地域の受け入れ体制の強化を進め、国内客の確保につなげていかなければと考えている。
一方、インバウンドは、16年度が前年度比10・6%増の約230万人だったが、17年度は、それを上回る伸び率で推移している。
政府では、2020年に4千万人の目標を掲げ、さらに上にもっていく努力をされているので、私どもも、その一翼を担う役割をしっかり果たせるよう頑張っているところだ。
北海道は、インバウンドのゴールデンルートである東京、京都、大阪から離れている。東京、京都、大阪は新幹線一本で一気に行くことができるが、北海道は地理的にも遠い。その離れている北海道に来てもらうためには、わざわざ来ていただくだけの魅力をつくらない限り実現しない。私ども、北海道の魅力アップに向けて、それだけの強い決意と真剣な努力を忘れてはならない。
──今後の観光振興に向けての抱負を。
もちろん、北海道は素材が非常に良く、観光資源もあり、食もおいしいと、ポイントになるものはたくさんある。それらをしっかり生かすことに加えて、ネット環境や人材、表示の問題など足りないところにさまざまな努力をすることで、500万人のインバウンド目標の実現を図りたい。
国内外を問わず観光客のニーズが多様化するとともに、インバウンドの方々の旅行形態も個人や家族など小人数での旅行にと大きく変わってきている。各地域とも連携してより質や満足度の高い観光地づくりを進め、「世界に誇れる、世界が憧れる」観光立国北海道の実現を目指していきたい。
【聞き手・北海道支局長/町田真英 1月30日北海道庁にて】
【たかはし・はるみ】
1976年一橋大学経済学部卒業、通商産業省(現経済産業省)に入省。貿易局輸入課長、中小企業庁経営支援課長、北海道経済産業局長、経済産業研修所長などを歴任。2003年北海道知事に初出馬して当選。現在4期目。