持続可能な地域づくりを AIなど技術導入も検討
――長野県阿智村といえば「日本一の星空」だが、星空観光を始めた背景は。
「私は、元々『ナイトツアー会場ヘブンスそのはら』の代表をしており、約8年前にヘブンスそのはらを取得した。当時の運営はファンドで、スキー場の将来や地域連携は考えていないスタイルだった。当時、阿智村の観光には閉塞(へいそく)感があり、阿智村を良くするには地域が連携して観光を取り入れなければと思った。村の観光地として昼神温泉があるが、バブル、愛知万博など外部要因がひと段落すると、最盛期には年間89万人いた客も60万人まで落ち込んだ。以前は、観光戦略や宣伝などを昼神温泉エリアサポートが担い、温泉の泉質や環境で勝負し、昼神温泉のブランドを徹底的にPRしていた。しかし、どれだけPRしても東京からは草津温泉、大阪からは有馬温泉と、歴史ある温泉地への流れは変えられなかった。また、旅行マインド、マーケットは変化し始めていた。村では有志が集まり、『その地域、阿智村にはここがあるから行ってみよう。行った先に昼神がある』という考えのもと、素材の棚卸しやブランディングについて議論した。昼神温泉や高原が村のコンテンツだと思っていたが、ウェブアンケートを実施すると『温泉はいいとは思わない』『スキー場もいいところがない』という真逆の結果が出た。その中に一つ、興味はあるが認知度がゼロの『日本一の星空』があった。当時認知度は、昼神温泉が38%、スキー場が28%。星空に関しては、本当にあるなら行ってみたいという回答だった。マーケットのヒントをもとに事業として推進しようと、観光協会とは別に4、5人のしがらみのない組織『スタービレッジ誘客推進協議会』を立ち上げ、星空観光を始めた。これが7年前だ」
――組織の立ち上げは。
「1、2年取り組み、小さな成功を積み上げると自信も湧いた。私は当時、観光協会の副会長で、ブランディングを観光協会の形態でできるか検討したが、観光協会では地域再生計画のスピードに付いていけなかった。約3年かけ、観光協会を発展的に解消。行き詰まっていた昼神温泉エリアサポートも吸収し、昼神温泉に泊まるコンテンツ作りと地域マネジメントを徹底的にする組織として2016年5月に阿智昼神観光局を立ち上げた。DMOに関しては、事業を進める中で目指すものが一緒であることから登録した」
――現在の取り組みは。
「ナイトツアー、空き家対策、施設運営だ。施設は、旅館を取得し、オフィスとレストラン、バーとして利用している。コンセプトは、『地域のブランディングによる持続可能な地域づくり』『地域の問題点を解消する会社を作ろう』。星空観光の年間利用者数は、始めた12年が6500人で、2年目以降は、2万2千人、3万人、6万人、10万人、15万人と堅調。現在は、増え続ける客に対して、宿泊施設の拡大、品質の改善を進めている。今年7月には、星空観賞に最高の拠点として『日本一の星空 浪合パーク』をオープンした。少人数で楽しめるプライベートデッキや学習施設などを備える。このほか、施設の食事、チェックアウト、チェックインの時間管理や2次交通、列車との接続時間なども見直している。また、食事など夜の対応にも取り組んでいる。夜になると、旅館宿泊者以外は食事難民となっている。村は高齢化が進み70歳を超える人に夜の対応は難しい。商工会と連携するなどして対応している」
――組織の目標は。
「産業を作ること。現在は、宿泊施設、飲食、特産品の販売など直営ビジネスを展開し、礎を作っている。何十年も使われていない物件など、50の空き家も改装し、50の店舗、100人以上の雇用を作り出す。生産労働人口、納税を増やすことにつながる。今後は、実現のためには、積極的な投資も行う。1億の投資に対し、50~60億の成果を出すなど、結果も示していく」
――課題は。
「地域の人口減少や人材不足など人に関すること。今は、求人を出しても人が集まりにくく、そもそも人がいない。誘客、人口を増やすには、商工、農業も同時に進めながら解消できる産業、企業がもっと必要。最終的には定住、移住へとつなげる未来予想図が必要だ。日本各地を見渡すと、将来ビジョンを描くより、誰がトップをやるか、プロモーションはどうするかなど、そんな議論ばかり。新しいビジネスを作り上げ、雇用を作るにはどうするかを考えなければならない。移住、定住も生活基盤が必要。人口統計を見ても、地域は流出、転出が多く、後継者がいなくなる。子どもは、故郷、田舎に夢、ロイヤリティーがないから都会に行く。時代に合った産業を作らず、未来を語らない大人たちの責任だ。未来に向けた子供たちへの教育も必須だ。人材不足への対応は暗中模索の状態だが、解決に向けては安易に外国人雇用を行わず、AIなど新しい技術の導入なども検討しながら産業の誘致などさまざまなことに対応していきたい」
――インバウンドは。
「一般的なこと以外はやっていない。外国人客は増えているが、われ先に増やすのでなく、自ら選んで来てもらう環境作りが大事。多言語化やWⅰ―Fⅰの議論もあるが、まずは地域ブランドを確立させ、受け入れ環境を作ることが先決だ。阿智村は、国外に向けた営業活動など積極的にしていないが、ウェブなどでのプロモーションを中心に発信し、前年比250%伸びている」
――観光を進める際に必要なものは。
「地域の人とスピード感を持って進めることが大切。旬が過ぎれば価値がなくなる場合がある。『決めたらすぐやる』は、リスクもあるが、将来ビジョンと照らし合わせながら進めていくべきだ。手順を重んじ、コンセンサスを得てから進めるのは観光業界の特異なところ。批判がある場合もあるが、結果を出して納得を得るべきだろう」
――今後について。
「現在、4~11月はフル稼働しているが、年間を通しての稼働率の向上を進める。閑散期といわれる冬の改善に着手し、ウインターナイトツアーなどの企画で改善していく。また、約10年後にはリニア中央新幹線の開通が予定され、開通を見据えた地域づくりも進めていく。阿智村だけで完結するつもりはないし、オール長野で目標、目的を持って取り組まなければならない。個人的な目標としては、『阿智村なら安心だ』のブランドをつくり、阿智村の名を世界に届かせたい」
※しらさわ・ゆうじ=ジェイ・マウンテンズ・セントラル代表取締役、伊那リゾート代表取締役社長、伊那市観光専務取締役。2016年5月から現職。
【長木利通】