【観光立国・その夢と現実 27】東日本大震災と全旅連 2 小原健史


 東日本大震災が発生し、その直後に上京し、厚労省の災害対策本部に行ったが通常の役所の雰囲気がガラッと変わり、まさに戦場のような状況である。生活衛生業界の担当課長に「国土交通大臣から全旅連に“被災者20万人を引き受けてほしい!”と言われたのでその協議に来ました」と言い、一時避難所の公民館や体育館などは被災者の健康にも良くないし、最低限のプライバシーも守れない、厚労省と全旅連で被災者が旅館を活用することについてガイドラインを作ることになった。

 まず、私から「被災者の旅館利用は国費で賄うということでいいか?」と確認する。この点はOKとなり、次に「1家族を1部屋に!」で安心とプライバシーを守ることを確認。そして「長期化するだろうから、1泊3食でいくらにするか? 旅館が赤字を出さず、国家的な大災害なのでもうけもしないギリギリの金額で、継続できる最低限の料金はいくらだろうか?」「1泊3食3千円は?」「いやあ、それは安すぎる」「食事の内容も一定の基準を決めなければ」などさまざま話し合って、1泊3食で〔朝食はパン1個と牛乳1本程度〕〔昼食はコンビニの弁当300円程度〕〔夕食は、その旅館の夕食会席の2分の1から3分の1程度の料理〕と規定し、料金は紆余(うよ)曲折の上で〔1泊3食5千円〕(=現在の災害対策料金は1泊3食7千円になっている)。

 普通なら、役所との交渉が妥結してお互いに握手をということになるが、いきなり隣の課の人が飛んできて私に「あんた誰だ?」と血相を変えて言うのでカチンときた私は「あんたこそ誰だ?」「俺は、厚労省の**課長だ!」「ああそうか! 私は全旅連の前会長の小原だ!」と激しい言い合いになる。

 「俺たちは、この大震災でたくさんの方が亡くなられて火葬場が足りず、埋葬許可を出すか出さないかを議論している横で金目の話は不見識だろうが!」と詰め寄る。血が沸騰している私も負けない。「あんたたち政府が被災者を旅館で引き受けてくれと言うから出向いて基準を作っているんじゃないか! 文句あっかこの野郎!」「何しろ、金目の話はするな! 許せん!」と怒号が飛び交う。私の体は全旅連の清沢専務が押し止め、相手の課長は周りの役所の人が引き戻すという大変な場面となった。

 われわれ業界の担当課長から「ここはもういいので、小原さん、この後は国交省で被災者の輸送を話し合ってください」と言われたので、急いで国交省・観光庁に向かう。同じくここも厳しい雰囲気である。事前に、佐藤信幸会長から「岩手県の被災者を秋田県へ、宮城県の被災者を山形県へ」「福島県の被災者を群馬県と新潟県へ」と移動の内容の連絡があっていたのでそれに沿って協議したが、被災者をどのようにして移動していただくか? バス会社のバスを大量に動かすかの妙案が出ない。

 四苦八苦していると、当時の観光庁の次長がたまたま通りかかって「小原さん大変な時に何?」と言われるので事情を話して「被災者を移動していただくバスを動かす方法がなかなか決まらない」と説明すると、周りの部下に向かって「バス会社を動かすのにはJTBの力を借りないか。そんなことも分からんのかしっかりしろ!」。大きな雷が落ちた。

 当時の中央官庁の幹部は大震災の勃発にいら立ちエンジン全開で努力をされていたのだな!と今にして思う。まさに〔我、国家なり!〕と言わんばかりの官僚の方の矜持(きょうじ)を見た思いがした。

(元全旅連会長)

 
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