【観光立国・その夢と現実 50】旅館創業者の精神性7 小原健史


 明治生まれの父小原嘉登次の旅館経営の精神性について連載している。

 矢継ぎ早に和多屋別荘の改造計画を繰り出す嘉登次に対して、その建設資金を捻出する義弟柿原専務の苦労は過酷であった。専務はいくつかの銀行の融資を組み合わせながら嘉登次の事業意欲への資金すなわち融資を確保しようと交渉し追従したが追い付かない。嘉登次には銀行の融資について独特の考え方をもっていたが、それは【日本は島国だから土地は有限で、土地を買ったらその価値は絶対に下がらない!】というもので、よって息子たちにも「土地は買うだけ買え、借金を背負ってでも買え、借金で買った土地の値段は必ず上がる、その値上がり分で、事業の売り上げや利益の不足分も補うし、もし返済が滞っても土地の値上がり分でカバーできる!」という考え方であり、現代の旅館ホテル経営論からは、乱暴で危険な思想であった。

 嘉登次が活躍したのは太平洋戦争直後の時代であり戦後の焼け野原から、高度経済成長期に向かいつつある中で、その当時は他にも自己資本が皆無に等しい中で銀行からの借入金に頼って事業を起こした経営者は数多く存在した。

 しかし、嘉登次の言う土地神話的な【土地の値段は決して下がらない】との信条は約30数年後のバブル経済崩壊でもろくも激しく破綻をした。嘉登次にしてみれば、母親が残してくれた材木業から身を起こしトラック輸送や建築請負まで事業を拡大するまでは、自己資本を拡大しながらの事業展開であったものの、旅館業は土地や建物の不動産が基本商品で、自己資本だけでは事業拡大はできず銀行からの借入金という他人資本に頼らざるを得なくなっていた。

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