【観光立国・その夢と現実 54】旅館創業者の精神性11 小原健史


 「支店長、1億円の融資の計画書や関連の書類は私が全て作成しますので、無理は承知でお願いします」。支店長いわく「そんなに無理せんでもよかろうが、なんで、今日1億円が必要ね?」「はい、父会長によれば県議会周辺の情報では、石油をはじめあらゆる物資の値段が急激に上がるようで、新しい旅館の建設費を一日でも早く決めて建設費を押さえたい!との考えだと思います」「今日中に1億円できないとどうなる?」「はい、私は旅館から追放されることになります」「はあ? 実の親子でそんなことはないやろう」「いえ、うちの父は本気です、私はこの1億円ができないと和多屋別荘から排除されます。【自分の事業目的のためには、父は非情にも冷酷にもなれる人】ですから」。

 そこまで言うと、健史は内心(しまった。口が滑って言い過ぎた)と思ったが、支店長はさらに何か言おうと口を開けたものの、そのまま黙り込んでしまった。

 支店長は、一点を視つめて何やら考え始めたようだ。しばらくして、支店長は立ち上がりながら「副社長、今から本店に行ってくるから旅館に帰って待っときなさい。あ! そうか、あんたは帰れんのか。仕方ない、この応接間で待って…」との言葉ともに消えた。

 支店内はほとんどの職員が帰宅し次長だけが残って、何やかや話しかけてくれるが、健史は1億円のことが気になって生返事を続けている。銀行の本店は車で約1時間離れた佐世保市にあり、健史は(往復するだけで2時間はかかるなあ! もし今回の1億円ができなければ嬉野を出ていくしかない! どこに行くか? 中学高校時代を過ごした福岡か? いっそ東京かな? と考えがグルグル回転する。ふと【下手な考え休むに似たり】との言葉を思い出し、雑念で脳みそがきしむように苦しい思いが果てしなく続く。

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