【観光立国・その夢と現実 57】旅館業と政治3 小原健史


 参議院比例区の選挙に全旅連会長の私が出馬し落選したので、全旅連の政治的なムードには暗雲が漂った。

 それを打ち払うために当時の小泉総理に東京での全旅連全国大会に出席を要請する計画を立てたが、大会実行員会の席では、さまざまな賛否の意見が交錯した。

 「地方で全国大会を開催しても厚労省の課長か課長補佐しか来てくれないのに、総理大臣が一業界の大会に来るはずはない!」とか、「参議院選挙に勝利をしていたら総理が来るかもしれないが、負けていては来ない」とか、焦点の定まらない議論が続いたので、私から「落選は私の不徳の致すところで誠に申し訳ないが、参議院選挙の敗戦で落ち込んでいる全旅連のムードを打破するために小泉総理を呼ぶのだから、ここは皆で気持ちを一つにして総理を呼ぶぞ、呼んでみせるぞ!との気合を持とう!」と言って議論を収束した。

 いよいよ東京での全旅連全国大会の開催日となり、日ごろから有力な組織団体にも組しない小泉総理が本当に会場に来てくれるものかどうか? やきもきしながら全国大会が始まった。主催者である全旅連会長の私が挨拶をしている最中、司会者から「小原会長、総理が到着されました!」との声がかかり、私は「どうも主催者が場つなぎの話のようで申し訳ありませんが…」と話を中断、小泉総理が壇上に来られると、思わず私は総理へ最敬礼をして迎えた。

 あとは、いつもと変わらぬ小泉総理の雄姿と迫力ある演説。「全旅連の皆さん、観光立国を一緒にやりましょう!」から始まり、「日本には各地に素晴らしい観光資源があり、それぞれ歴史や文化、景観や温泉、料理や酒など多彩なものである」。また、フランスのシラク大統領は大相撲に詳しく、「今日は力士の誰が勝って誰が負けた!」など、日本の総理の自分よりはるかに詳しい。そのような外国人もたくさんいることなど。また、観光立国のもたらす経済効果や国際交流の意義も高揚することなどを熱く語られ、5分の予定が20分にも及ぶほどであった。

 総理大臣が全旅連大会に来られることは初めてで、参加者の気勢は大いに上がり参議院選挙敗北で意気消沈した全旅連の政治的な意識は大きく向上した。

 その日の夕方の懇親会には、多くの国会議員が参加していただき、そこでは、会場に来られた国会議員の名前を到着順に読み上げ、檀上で手を振っていただく、また、現職の大臣や党五役クラスの方々にはあいさつをしていただく、その後、地元の青年部員が各県のテーブルに案内する、という、いわゆる【全旅連方式】という対応がとられ、先生方も地元の皆と話ができて良いと好評で大いに盛り上がった。

 国会議員の参加は極めて短時間の滞在が多く、会場について主催者にあいさつし、自分の地元の関係者などにあいさつをして誼(よしみ)をつなげば、次の予定へ動くのが普通なので、この【全旅連方式】は一般の参加者にも来賓の国会議員などにも好評のようである。

 全国大会の懇親会でも国会議員のあいさつで記憶にあるのは、武部幹事長からは「全旅連の皆さん、このような盛大なパーティーを開いていただいてなんだかすぐに、また、選挙でもやりそうな感じですね!」とか、森喜朗会長からは「小原会長が参議院議員になれなかったのは誠に残念。今後も旅館業を応援したい!」とのあいさつを頂いた。

 われわれが全国大会を開催したのは赤坂プリンスホテルであるが、現在はこの建物は解体されて新たなホテルとオフィスビルに変わった。当時の赤坂プリンスホテルは全旅連に近く便利で、特別地方消費税の撤廃や公的宿泊施設の規制の運動の中で、その決起大会や青年部の全国大会の舞台にもなっていて、われわれ当時の全旅連および青年部関係者にとっては思い出深いホテルである。

(元全旅連会長)


(観光経済新聞12月9日号掲載コラム)

 
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