【観光立国・その夢と現実 58】旅館業と政治3 小原健史


 全旅連会長に就任して以来、さまざまな経験をさせていただいたが、全国各地の旅館組合の総会や会議に出席する中で、予想だにしなかった問題に出くわすこともあった。

 それは、関西のある会合で、終了後に年配の女性の組合員さんから「小原会長さん、立派なごあいさつされよったけど、わてらのホテルには全旅連は何もしてくれんのはどういうこっちゃ?」と問い詰められた。突然のことで戸惑う私に、その女性は「国金や国金!」とまくし立てて、怒り肩の後姿を見せながら会場を出て行ってしまった。

 傍らにいた全旅連事務局の清澤氏に「今の方は何を言いたかったのか?」と質問すると、清澤氏は言いづらそうに「今の方は、レジャーホテルの経営者の方で、以前から同じ旅館組合員で国金(=現在の日本政策金融公庫)の融資を受けられるところと、そうでないところがあるのはなぜか?」と全旅連本部にも抗議の電話を受けています」と言うので、本部に戻って詳しく聞くと、いわゆる同伴旅館には国金の融資は適用されないということになっている。また、これは法律ではなく以前の厚生省の課長通達だということも分かった。

 同じ旅館業の営業許可を受け、地元の旅館組合に加盟してもレジャーホテルは国金の公的な融資は受けられないことを私は理解し、違和感、差別感を感じた。私の全旅連会長としての任務は【旅館業の社会的な地位の向上】と【全旅連組合員に有利な法制税制の創設あるいは維持】であり、さらに【旅館業の不条理の改革】【公私混同の排除】でもあるので、このレジャーホテルの国金の融資が不可能という不条理とその改善には血が騒ぎ燃えた。

 全旅連本部に首都圏や関西のレジャーホテルの会員さんに集まってもらい、まず、国民金融公庫の本部に行き「国金の融資がレジャーホテルには適用されないのはなぜか?」と強面の交渉をした。すったもんだの交渉の後に国金の幹部から、最後に「おおもとの厚生省がOKであれば、うちもOKだ!」との言質を得て、すぐさま厚生省(当時)に向かった。

 厚生省では、担当課長に同じような「同じ全旅連の組合員なのにレジャーホテルは国金の融資を受けられない、これは不条理だ。ぜひ、改正してほしい」と私が強訴すると、担当者は「小原会長の旅館とレジャーホテルは基本的に違うでしょう」と悠然と言う。

 それを聞いて私は「何を言うのか。私の旅館もレジャーホテルも同じ全旅連会員で営業許可も保健所から受けている。今日は私の背後に居られるのは皆レジャーホテルの経営者の方々ですよ」と言うと、さすがに担当者は口をつぐんだ。

 私が追い打ちをかけるように「なぜ、そのような差別をするのか? おかしいではないですか! 法律の定めはないと言うし、一体誰がそんなこと決めたんだ」と迫ると、なかなか口を開かなかった担当者が「確かに、これは法律で融資を規制しているのではなく、実は、戦後間もない国会の審議で、某女性議員から”小学校の真ん前のラブホテルは教育上誠にけしからん。国の資金の融資などしてはだめだ”との発言があり、それがもとになって厚生省の課長通達になった」と言う。

 私が「課長通達など、いくらでもひっくり返せるでしょう」と言うと、担当者いわく「小原会長、課長通達は、場合によっては法律よりも強く厳しいものです」とのたまう。私は手を変え品を変えて攻めるが結局、物別れに終わった。

 旅館業の風営法の適用除外と併せて私がやり残した仕事であるが、レジャーホテルへの公的融資の規制も風営法も、【旅館やホテルは社会的に猥雑(わいざつ)な業種である】という偏見と時代遅れの思想がいまだに残っている。【観光立国】の現代にである! 全旅連はこのようなことにも挑戦すべきで柔軟かつ大胆な対応力を発揮してほしい!
    
(元全旅連会長)


(観光経済新聞1月6日号掲載コラム)

 
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