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私の業界活動の基盤は、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(=全旅連)であったが、全旅連が現在最も注力していることの一つが、【温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録】である。
この無形文化遺産の保護は2003年のユネスコ総会において、従来の有形の世界遺産に対して、無形の文化遺産は衰退や消滅の脅威にさらされているとの認識から採択された。日本では能楽、歌舞伎にはじまり、伝統建築の匠の技、和食、手すき和紙などで、最近では伝統的酒造りが加わり23件が登録されている。
温泉文化の運動の一方の推進役は群馬県の山本一太知事であり、山本知事は、かつて参議院議員1期目の時、われわれ旅館業界の悲願であった【特別地方消費税の撤廃運動】に絶大な支援をいただいた。山本一太という政治家の存在がなければ特消税の撤廃は不可能だったと言っても過言ではない。
よって、今回の温泉文化の無形文化遺産の登録も業界一丸となって温泉地であろうとなかろうとご協力をお願いしたい。まずは、署名運動であるが、詳しいことは全旅連(TEL03・3263・4428、または、各都道府県事務局や全旅連青年部幹部、都道府県の青年部長)にお聞き願いたい。
さて、わが国の温泉については、私が全旅連会長に就任した約20年前は、全国各地にスーパー銭湯が出現したり、逆に歴史的に有名な温泉地の一部で温泉が枯渇したり、特徴的な色や効能などの変化が続発しマスコミでも騒がれた。
そのような中、太平洋戦争直後に制定された多くの法律の中の一つである「温泉法」は大枠を決めるだけで不十分で、かつ、時代的な課題もあるので所管する環境省は温泉法の改革を行いたいと考えていたようだ。
私は全旅連会長の立場でその委員会に参加したが、旅館業界でも議論が噴出し、ある人は「昔から有名な温泉は第1級に、沸かし湯のスーパー銭湯は第3級だ!」と既得権を主張すれば、一方では「現状の乱掘、乱使用では日本の温泉は必ず枯渇する」と警告を発する人物もいて、温泉地の旅館ホテルにとってビジネスの根源の”温泉”に関する法律なので利害関係も非常に強く、簡単にはまとまる問題ではなかった。また、温泉の採取の際の大きなガス爆発事故も起きて、結局は温泉法の改編はできなかった。
さて、温泉法では何が問題か?というと、そのポイントは「温度が25度以上か、ナトリウムや水素など指定された19種類の物質」のどれか一つを含めば”温泉”と呼称することができるという法の根幹的な部分である。温泉と呼称するには、温度の設定や物質の指定には科学的な工夫が必要と思われる。
また、実際に事業として温泉を利用するには【温泉の掘削】そして【揚湯】の二つについて都道府県の許認可を得ねばならない。さらに、基本的に都道府県では【温泉の保護】を最大の目的として許認可を与えるのであるから、掘削の申請があれば【温泉に関する審議会】で、既存の温泉源との距離、地層、揚湯の量と限界揚湯量=回復力を詳細にチェックしてそれにあたることになっている。天恵で有限の資産である温泉をSDGs的に持続可能な方法で保護涵養(かんよう)していくにも【温泉法】の改正強化が必要だと思う。
温泉を語るに、もう一つ大事なことは、温泉のエネルギー源としての活用である。これは、地中の高温度の温泉のエネルギーでタービンを回し発電をすることであるが、太陽光や風力などの発電とともにクリーンエネルギーとして認識されている。
しかし、私は【温泉を発電に利用することには反対】である。その理由は次回に語りたい。
(元全旅連会長)
(2025年2月10日号掲載コラム)