
今回は、旅館ホテル業界と議員について触れたい。国、都道府県、市町村にはそれぞれ首長としての総理大臣、都道府県知事、市町村長がいるが、二元代表的に国会、都道府県議会、市町村議会には議長がいる。
特に、国の政治の仕組みをみれば【三権分立】の大原則により<立法は、国民から選ばれた国会議員>によって行われ、議院内閣制により<行政は国会議員の間で選ばれた総理大臣が内閣を組織して各部門の大臣の指揮により業務が執行>される。そして、<司法>は最高裁判所を頂点として、高等、地方、家庭のそれぞれの裁判所で構成され、法律を逸脱した者には、その罪に罰が決められる。
そこで全旅連は全国の旅館ホテルのために有意義な活動を行うために存在するのだから、勢い旅館ホテルに有益な活動をする国会議員と連携することになり、具体的には【観光産業振興議員連盟=観議連】や【生活衛生議員連盟=生衛議連】に所属する国会議員を選挙などで支援し、当選した議員にはさまざまな要望をしてその政治的な目的を達成するとのスタイルである。
ここまで、小難しく、しかつめらしい表現を重ねたが、分かりやすい表現に切り換えれば、40年ほど前に全旅連青年部長に就任された長野県の森行成氏が主張された【グー・チョキ・パー理論】である。それはわれわれ国民を”グー”とし、国会議員を”チョキ”とし(失礼な呼称であるが)内閣を”パー”とすれば「グーは選挙でチョキを選ぶのでグーの勝ち」となり「チョキは国会で国の予算や法律の決定権があるので、パーの内閣・官僚に勝つ」、「パーの内閣・官僚は、グーの国民の生活を調整し誘導する立場にあるのでパーの勝ち」となる。
さらに踏み込んで言えば、われわれ国民が1人で個人的に各省庁や都道府県や市町村の職員に直接的に要望をしても、ほとんど無視され流されていく現実がある。ところが各段階で議員バッジをつけた議員が行政の職員にモノ申せば、その意見に対して職員は真剣に対応する仕組みになっている。
それは、行政の提案した予算や各種法律や条例を審議し可否を決定するのは議員であるからだ。批判を恐れずに言えば、憲法で保障された国民主権のわが国でも現実的には各首長と国民・市民の代表の議員が最も強い立場にいると言っても過言ではないだろう。
あえて言えば、場合にもよるが「国民市民の百回の陳情よりも国会議員や市議会議員の一言がものごとを動かす」現実もある。
ここまで述べた理由により全旅連や旅館ホテルの団体では、観光振興や生活衛生の向上を目的とする国会議員の集団=観議連や生衛議連と連携して、その折々の政治的な課題を乗り越えてゆくこととなる。
特別地方消費税の撤廃の際は、山本一太元参議の大活躍に始まり、最終的には生衛議連の中核的な人物であられた伊吹文明先生に大きな力をいただいた。NHK受信料の65%割引については、当時の観議連の故細田博之会長とNHKに詳しい川崎二郎代議士の協議によって決着したものと思われる。他にも例を挙げればキリがないほどである。
ところで、観光に最も卓越した政治力を発揮されたのは二階俊博先生であることは衆知の事実であるが、私が二階先生と初めてお会いしたのは三十数年前の特消税撤廃の運動の最中であった。特消税は都道府県税であったが、その一部が市町村に配分される制度があり、それを創設されたのは運輸政務次官の二階俊博代議士であるとの情報を得て直接面談をして特消税撤廃にご理解を得ようとした。しかし、当時の全旅連では二階先生に接した者がおらず、福島県の青年部幹部の鈴木喬氏と一緒に渡部恒三先生にお願いして二階先生との面会を申し入れた。その時の渡部先生の電話の声が今でも耳に残るのだが「二階君、旅館の若旦那たちが俺の事務所に来ているが俺じゃなく君に会いたいと言ってるぞ!」と福島弁で声高に言われると、間髪入れない感じで二階先生が目の前に現れた。それはとても鮮烈なイメージとして脳裏に刻まれている。
(元全旅連会長)
(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)