【観光立国・その夢と現実 61】旅館業界と議員② 小原健史


 三十数年前の特別地方消費税の撤廃運動の中で二階俊博先生と初めてお会いしたが、それ以来、観光振興の専門の政治家としてさまざまなご指導をいただいた。小泉総理の時代に自民党幹部を務められ観光庁の創設など【観光立国】の立役者として活躍されたのは記憶に新しい。また、安倍晋三総理の時代には自民党幹事長として辣腕(らつわん)を振るわれ長期安定政権を支えられた。

 一般的に、旅館業界の課題の解決について国会議員に陳情する際、“通り一遍”の対応をされることが多いのだが、二階先生は違った。私が「二階先生、〇○の問題で旅館業界は困っています。何とかしてほしい」と陳情すると「分かった! そこまで君が言うのだからわれわれも自民党や官僚でチームを組んでことに当たるが、君たちはチームを作っているのか? 第1回目の会議はいつやるか? いつまでに解決すればよいのか?」と即答され、行動を起こそうとされるのだ! 陳情を受けて、その問題の解決の可能性を即座に見通し、その場で即断即決し、そして相手の本気度も探るという見事な対応に舌を巻くこともあった。師と仰がれる田中角栄先生もそのようであったと仄聞(そくぶん)する。

 その後、二階先生は私の地元の佐賀県とも強いつながりを持たれていることが分かり、一気に親密なお付き合いをいただくことになるが、それは、二階先生が秘書をされた静岡県選出の遠藤三郎代議士の親類に佐賀県選出の杉原荒太参議院議員がおられ、その杉原先生の選挙のたびに二階先生は佐賀県の鹿島市を本拠にして選挙運動を展開されていたそうで「小原君、君の父上の小原嘉登次先生の県議会議長の車に何度も乗せてもらったよ」と言われて驚いたこともあった。

 また、突然、二階先生から電話があり「小原君、明日の朝一番の東海道新幹線の下りの〇番ホームの〇号車に乗れるか?」、私が「先生、明日ですか?」、「そうだ、明日の朝一だ、内容は列車の中で話す!」。私は地元の嬉野温泉にいたが、早速、その日に上京して翌朝に備えた。話の内容は「静岡県の某旅館の経営破綻を何とかして救いたいから協力してくれ!」とのこと。私が「先生が乗り出されるほど大切な経営者なのですか?」と伺うと「代議士秘書をしていた若い時にお世話になった人だから放っておけないだろう!」と言われ、経営内容を質問するも「そんなことは俺に聞いても分からん。だから旅館経営のプロで旅館ホテルの事業再生が得意な君に同行してもらっているのじゃないか!」。私は沈黙するしかなかった。

 現地に到着すると、そこには二階先生の同志の武部勤元幹事長がおられ「やあ小原会長、久しぶり!」と言いながらぎゅっと握手をして、別室に二階先生と2人で消えられた。

 また、二階先生が来られると聞いて、その旅館に駆け付けた地元の市議や県議など有力者がバラバラと集まってくる。

 私がどうしたらよいか?と迷っていると、そこの経営者らしき人物が近寄ってきて「小原会長、助けてくれ!」と言う。話を聞くと資料も何もない。そこで、その経営者に直近の決算書3期分と現状の土地建物の財産状況、金融機関の借入金の残高を確認するが、その経営者は地元の同業者の悪口やその街の首長や議会の批判を繰り返すばかりで話にならない。 

 やっとの思いで担当の税理士と取引先の金融機関の支店を紹介してもらい交渉が始まった。

 調べれば調べるほど「だめだこりゃ!」のため息が出るが、二階先生から呼ばれ「どうだ?」と聞かれ「いやあ、ひどいですね、これは法的な手続きに入った方が良いと思われます」と進言するが「小原君、勘違いするな! 何とかしろ!」と強く言われ、次の陳情者と面談を始められた。

 (元全旅連会長)


(観光経済新聞2025年4月14日号掲載コラム)

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒