観光は「総合的戦略産業」 オールジャパンで推進を
――3年間のコロナ禍を経て、現状をどう見ているか。(聞き手・小林茉莉)
「人流、物流が復活してきているが、コロナ禍によりニューノーマルな世界となり、新しいものを打ち出していくことが必須となった。まず取り組むべきはSDGsへの対応だ。これを怠ると世界的に評価されない。LGBTQ、高齢者、障害者の受け入れ対応、緑を守る取り組みなど、SDGsに横串を入れて取り組む必要があるLGBTQなどの受け入れ態勢整備については、大阪観光局でも今年度の重要事業に位置付けている」
「2025年の関西・大阪万博を控え、東京オリンピックで実現できなかった『世界への日本各地域の魅力発信』に向けて、万博という最大のチャンスを生かすための準備をする1年でもある。ウクライナ侵攻や米中関係問題など、地球規模で『対立と分断』が進んでいる。このタイミングで開催される万博として、地球規模での『協調と共生』を訴えることが重要になる。その観点からも万博を契機に、大阪から日本を、世界を変えていきたいと思っている」
「今年は復活の年として新しい未来を展望する『ホップ』、25年は万博開催で人流、物流が一気に膨らむ『ステップ』、30年が飛躍の『ジャンプ』だ。30年、40年にこの国はどんな立ち位置になって、どう観光政策を打ち出していくのかを整理していく時期と考えている。人口減の流れの中では、万博やIR開業を控えて、ラグジュアリー対策の強化も必要と考えている。高度専門人材の育成も必要だ」
――観光立国復活に向けた観光産業、地域それぞれの課題は。
「現在一番の課題は、人材不足の一因でもある給与水準の低さだ。給料が安ければ優秀な人材は集まらない。産業全体として、生産性、収益性の低さ、高付加価値型のサービスを提供することへの意識の低さも問題だ。観光の産業構造を変えるところから取り組まねばならない」
「DMOや行政の観光部局についても、観光をけん引する組織には、交通、文化、経済全ての政策に精通したエース級の人材が必要だ。さらに世界に勝つには、稼ぐ力とマーケティング力、分析力、そして観光に資する優秀な人材の育成が必要だ」
「当局ではスポンサー制を取り入れたり、周遊パスを販売したり、越境EC事業を展開したり、どんどん自主財源を増やしている。しっかり稼げるようになることで、優秀な人材がチャレンジしようと思えるキャリアプランを観光業界として確立していきたい」
「地域については、『地域には何もない』と言い訳するのではなく、あるものをしっかりと掘り起こして磨きをかけ、ブランディングすることが第一だ。その上で地域それぞれが『Think global’Act local』の意識を持てるかどうか。われわれも『大阪=日本の観光ショーケース』に向け、岐阜県高山市などの先進地域とも連携して、周遊ルートづくりなどの取り組みを進めている」
――観光庁に期待する取り組み、希望する組織像は。
「観光産業は、1次、2次、3次産業全てを動かして、国内外からヒト、モノ、カネ、情報を集め、経済効果を起こし、雇用を生み、地域の魅力を高めることができる、『地域の総合的戦略産業』だ。新たな観光立国推進基本計画ではスタートアップ支援にも言及するなど、地域の総合的戦略産業としての観光の確立に向けかなり進化した内容になっていると感じている」
「観光庁には『日本の観光をけん引している』というリーダーシップをもっと発揮してほしい。観光セクションは『プロデューサー』。大きい権限があるわけではない中で、熱意とスピード感を持って、フットワーク軽く各省庁との横展開を実現していくことが大事だ。『観光庁と組んだら外需を取り込める』などと実感できれば、もっと横串が強く刺せるのではないか」
「その上で、観光がこれからの日本を活性化させる最高の産業であること、『観光庁はこういうことを考えているのだ』ということをもっと国民に発信して、『オールジャパン』で観光立国を進めていっていただきたい」
みぞはた・ひろし 1985年、自治省(現・総務省)入省。大分県出向を経て、2004年大分フットボールクラブ社長。10年に観光庁長官。15年から現職。