【観光立国復活への提言】観光庁 参与 和田浩一 氏(第8代観光庁長官)に聞く


観光庁 参与 和田浩一 氏(第8代観光庁長官)

高付加価値化の成果期待 観光の重要性アピール

 ――7月に長官を退任されたばかりだが、観光の現状をどう見ているか。(聞き手・向野悟)

 「旅行需要は堅調に回復してきている。国内旅行は、夏の観光シーズンは台風などの影響を受けた地域があるが、各地でにぎわいを見せている。インバウンドも急速に回復しており、日本に来たくてうずうずしていた感じが伝わってくる。円安の影響もあるが、そうした気持ちが消費額の増加にもつながっているのではないか」

 ――長官在任中には「全国旅行支援」に加え、宿泊施設などの改修を支援する高付加価値化事業を推進した。

 「コロナによる宿泊客の減少、借入金の増大といった大きな痛手を受けた宿泊産業をどうすべきか。その一つの方向性が高付加価値化。施設の改修やサービスの見直しで宿泊単価を上げる。人手不足も踏まえ、従業員の給与アップにも還元していく。そういうサイクルを回すことが大事だ。補正予算で多額の予算を確保し、支援に充ててきたので、成功事例が出てくることを期待している。宿泊業の経営に関しては『高付加価値化に向けた経営ガイドライン・登録制度』もつくった。生産性向上への取り組みを進めて、持続可能な観光産業を目指すべきだ」

 ――外国人富裕層などの誘客に向けて高付加価値なインバウンド観光地づくりのモデル事業も実施されている。

 「インバウンドの地方誘客、消費拡大には、地域に長く滞在し、お金を落としてもらう必要がある。そのための取り組みであり、一番に認識すべきことは、一般の旅行者とは違う、高付加価値層がターゲットということだ。きれいな景色やおいしい食事というだけでなく、その土地の自然や歴史、文化、産業に深く触れる特別な体験価値が求められる。それには地域のブランディングが重要でそこが出発点になる。モデル地域には、地域のコア・バリューをしっかり特定してください、とお願いしている。その中で地域性を表すような宿泊施設やアクティビティが必要になり、ビジネスジェットなどの受け入れ態勢も必要になる。幅広い関係者が参画し、地域全体で取り組む必要がある」

 ――「第2のふるさとづくり」という新たなプロジェクトも打ち出した。

 「『何度も地域に通う旅、帰る旅』というスタイルを定着させ、国内観光の新しい需要を掘り起こす。地域の交流・関係人口を拡大し、2地域居住、移住のような動きにもつながるといい。地域との関係性をどうつくるか、地域での移動手段をどう確保するか、どのような滞在環境を提供できるか、こうした課題に積極的に向き合う地域を支援し、成果も上がり始めている。一方でプロジェクトの認知度が十分ではないので、もっと多くの方に知ってもらいたい」

 ――人口減少、少子高齢化が進む地方では観光に対する期待が大きい。

 「観光は成長戦略の柱、地域活性化の切り札という考え方が共通認識になってきたが、その一方で観光というと、どうしても宿泊施設や旅行会社、交通機関などの狭い分野の問題と見られがちだ。そうではなく、観光というのは人的交流による地域活性化と見てもらえると、もっと幅広い関係者が参画してくる。DMOをはじめ観光関係者は、観光を通じた地域課題の解決に取り組むと同時に、観光の重要性を目に見える形で外部にアピールする必要がある」

 ――これからの観光庁に必要なことは。

 「さまざまな面で成果を出してきたが、インバウンドの消費額や地方滞在に関しては未達成の部分もある。人手不足やオーバーツーリズム、持続可能な観光など、新しい課題にも直面している。全省庁で取り組まなければならないテーマが増えており、観光庁は司令塔として機能を強化することが大事だ」

 「観光庁には、観光庁で採用された人、国土交通省で採用された人、自治体や民間企業から来ている人がほぼ3分の1ずつバランスよくいる。省庁の中でも珍しい組織だと思う。それぞれの視点、角度から意見をぶつけ合って、課題の解決に取り組み、地域や産業界の期待に応えていってほしい」

 わだ・こういち 1987年、運輸省(現・国土交通省)に入省。2021年観光庁長官。23年7月から現職。

 
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