
脱炭素、資源循環、環境保全へ 事業者の積極的な取り組み期待
観光を持続可能にするために、環境に配慮した取り組みが以前にも増して求められている。浅尾慶一郎環境相に「環境に配慮した新時代の観光とは」をテーマに話を伺った。
――(聞き手=本社取締役編集長・森田淳)わが国における観光の重要性について、どのような認識をお持ちか。
さまざまな側面から、観光は大変重要な産業だと認識している。
国内の方が各地を旅行することによる影響はもとより、昨今はコロナ禍が明けて、インバウンドが著しく増えている。皆さんご承知のことだが、日本で最も外貨を稼いでいるのは自動車産業で、17兆円強。インバウンドはそれに次ぐもので、8兆円を超える水準となっている。
昨年はインバウンドが3687万人と過去最高を記録したが、そのうち国立公園に来られた方は844万人で、全体の23%に当たる。大変多くの方が、環境省所管の国立公園に来られている。
――インバウンドが過去最高を記録する中で、観光地の一部で「オーバーツーリズム」が発生し、それによる環境への負荷が懸念されている。対策について、大臣の見解を。
政府は2023年10月の観光立国推進閣僚会議で、オーバーツーリズム未然防止抑制に向けた対策パッケージを決定し、関係省庁で取り組みを進めている。
国立公園においても、観光客が集中する一部の地域では、季節や時間帯により、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への支障や、旅行者の満足度低下が懸念されている。
こうしたことから関係者と連携し、安全で適正な国立公園の利用を進め、自然環境への悪影響を生じさせないようにするため、富士山では広域的な利用動態の把握と、利用分散などの取り組みを進めている。
来年度からは中部山岳国立公園でもこのような取り組みを進める予定だ。
また、ごみの投棄等のマナー違反が問題になっている観光地もあることから、IoTスマートごみ箱を活用した、ごみの分別排出、ポイ捨て、置き捨てを抑制する広島県宮島などでのモデル事業も実施している。
以上のような対策を同時に実施して、観光客も地域住民も、みんながハッピーになれるようにしていかねばならない。
――環境省はかねて、「エコツーリズム」を推進するなど、観光推進と環境保全の両立を提唱してきた。旅館・ホテルではアメニティなどプラスチックの削減、旅行会社では二酸化炭素排出が少ない交通機関を使った旅行商品の造成など、環境に配慮した動きが加速している。大臣はこれらの動きをどう見るか。
観光においても環境への配慮は大変重要で、もはや当然のことだと認識している。
環境省は、観光資源となっている自然に配慮しつつ、自然と触れ合うことでその知識および理解を深めるための活動として、エコツーリズムを推進してきた。
また、二酸化炭素の排出が少ない交通機関の活用推進として、EV(電気自動車)バスやFCバス(燃料電池バス)といった車両や、「地域の公共交通×脱炭素化移行促進事業」にて観光地の周遊に用いられる「グリーンスローモビリティ」等の導入費用への助成を行っている。
アメニティなど「ワンウェイプラスチック」の使用量削減については、プラスチック資源循環法に基づいて観光業界にもご協力をいただいているところであり、改めて感謝を申し上げたい。
観光に来られる方々も、エコに対する意識が以前からかなり高まっていると思う。観光業界の方々には、環境に配慮した取り組みを引き続き進めていただきたい。
――環境保全へ、今後さらにどのような取り組みが求められるか。
環境省は脱炭素先行地域の選定や、「ごみのポイ捨て・発生抑制対策等モデル事業」など、環境保全と観光振興の両立や、観光地のさらなる魅力向上に資する取り組みについて、広く横展開を図っている。
脱炭素先行地域は、現在、全国に81カ所ある。そのうちの一つ、京都市は、市内に点在する文化遺産などを巡るモビリティとして、タクシーのEV化を進めるとともに、EVタクシーで巡る修学旅行向けツアーを企画するなど、ゼロカーボン修学旅行の実現に取り組んでいるところだ。
松江市では、日本旅行等と連携して、歴史的景観の保存、観光産業の活性化によるにぎわい創出と脱炭素を両立させる取り組みを進めている。
ごみのポイ捨て・発生抑制対策等モデル事業では、先ほどお話ししたIoTスマートごみ箱を活用した事例など、先進事例を取りまとめて、その情報を共有する成果報告会を先ごろ開催した。
観光業界がさまざまな関係者と協働しながら、これらの取り組みに主体的に関わり、環境保全が国内全体に浸透することを期待している。
――その他、本紙読者の観光関係者にメッセージを。
「国立公園満喫プロジェクト」の一環として、昨年10月に脱炭素や廃棄物等の削減、自然環境保全、地域社会への貢献など、公園内の宿泊施設の事業者に取り組んでいただきたい活動をガイドラインとしてお示ししたところだ。
2021年に策定された自然体験ツアーのガイドラインでも、持続可能な環境への貢献が重要であると提言している。観光事業者におかれては、国立公園利用者がさまざまな活動を通して環境保全に貢献する仕組みづくりをしていただけるとありがたい。
観光業の皆さまには、ぜひ高い意識をもって、脱炭素、資源循環、自然環境の保全再生に積極的に取り組んでいただきたい。また、国民の皆さまにも、環境に配慮しつつ、旅を通じて日本の魅力をぜひ感じていただきたい。
浅尾 慶一郎氏(あさお・けいいちろう) 昭和39年2月11日生。東京大学法学部卒業。日本興業銀行勤務を経て平成10年参議院議員(神奈川選挙区)初当選。令和4年参議院議員3期目当選。令和6年参議院議院運営委員長、10月から環境相。