税金は安ければそれに越したことはない。ただ、安いあまり、例えば行政サービスの質が低下してしまうと困る。税金を巡る感情は何とも複雑だ。大事なのは納税者の理解が得られ、目的通り使われるかどうかではないか。
2月15日付本紙で報じているが、「宿泊税」の導入を巡って宮城県が揺れている。税問題が一筋縄ではいかないことを印象付ける。
1月30日に仙台市で開かれた、県の旅館・ホテル、観光事業者向け説明会では、村井嘉浩知事が新たな観光振興財源の必要性を訴えたが、事業者は「税による宿泊施設つぶしだ」などと反発、紛糾した。
知事は「県財政が厳しく、人口減少が続けば観光振興に充てる財源が減少せざるを得ない」と導入に理解を求めたが、事業側からは「宿泊税ありきの議論」「財源がないのではなく、予算配分の問題がある」「税を課せば結果的に客が他県に流れかねない」との声が相次ぎ、県と事業者の溝の深さがあらわになった。
こうした中、県は12日から始まった県議会の2月定例会に、宿泊税を導入するための条例案などを提出した。税額は1人1泊に付き300円を徴収する内容で、来年4月1日から徴税開始を目指す。
宿泊業者の理解を得ぬままの見切り発車に反発は一層強まりそうだ。県議会最大会派の自民党・県民会議も導入に難色を示しているといわれるだけに、実現までには曲折がありそうだ。
現在、宿泊税を導入しているのは東京都、大阪府、京都市、金沢市などで、今年4月からは福岡県と福岡市、北九州市が導入を予定している。影響を心配する宿泊業者はいただろうが、宮城ほどの反発はなかったような気がする。
東日本大震災で宮城県も大きな打撃を受けた。客足は順調に回復しているが、まだ復興途上にあるというのが宿泊業者の率直な思いではないか。消費税、入湯税、そして宿泊税の「三重課税」による客離れを心配するのは当然だ。また、「新税が導入できるまでに復興したのか」と思われることをよしとしない気持ちもあろう。
国からの東北観光復興対策交付金は2020年度で終了する。県は観光振興のための代わりの財源を宿泊税に求めた格好だが、急ぎすぎた感は否めない。現場の声を聞いて、丁寧に作業を進めていくべきではないか。
いま新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大している。そんな中、宿泊税を導入すればダブルパンチになるとして、奈良市のように導入を先送りする自治体も出てきている。社会情勢を踏まえた冷静な判断をしてほしい。
宿泊税は宿泊客の理解が得られるのかどうかがポイントになる(写真と本文は関係ありません)