新型コロナウイルスワクチン接種の遅れが際立ち、「ワクチン後進国」とまでやゆされた日本だが、政府が東京と大阪に設置したワクチンの大規模接種センターで5月24日から接種が始まった。
政府はセンター開設を接種の加速化につなげたい考えだが、打ち手の解消を図るなど早急に体制を整え、国民の不安を解消してほしい。
海外に目を転じれば、旅行を兼ねてワクチンを打ちに行く「ワクチン観光(ツーリズム)」や、ワクチン接種済みの人を対象に、観光客として受け入れる動きも出ているようだ。
朝日新聞は「欧州連合(EU)は5月20日、ワクチン接種を終えた人を対象に、観光など不要不急の目的でのEUへの渡航を認めると決めた」と報じている。「変異ウイルスなどの状況によっては凍結もあり得るが、夏の観光シーズンを控え、落ち込んだ経済の活性化にもつなげる狙いだ」とも。
米・ニューヨークでは観光客や通勤客を対象に、無料でワクチンを接種する取り組みが始まっている。米・モデルナと英・アストラゼネカのワクチンが承認されたとはいえ、ワクチン確保が十分とは言えない日本とは大きな違いだ。
ニューヨーク州のクオモ知事は5月上旬の会見で、「観光客の皆さん、ニューヨークに来ていただければワクチンを差し上げましょう」と話しており、ワクチンを観光客誘致のための手段として活用する考えを示している。日本人も対象という。
接種した人には地下鉄など鉄道が7日間無料となる乗車券も配っているというから、驚くほかない。
また、タイでは7月から接種済みの外国人観光客にプーケット島を開放するとの報道もある。プーケットで過ごし、発熱などの体調変化がないことを条件に、その後バンコクなどタイ国内の都市に移動することも可能とされる。
ワクチン確保に苦労している国のことを考えると手放しでは喜べないが、接種先進国は接種が行き渡った後の対応を考えているのだろう。
コロナ禍で訪日旅行者が激減した日本だが、ワクチン接種の遅れはインバウンド回復の足かせとなりかねない。焦って受け入れるリスクを考えると慎重にならざるを得ないが、世界の流れは理解しておいていい。
接種環境の改善を見込み、接種が済んだ人に対してツアー代金から千円をキャッシュバックするキャンペーンを始める観光バス会社も出てきた。ようやく動き出したワクチン接種が高齢者のみならず早く広がることを願ってやまない。
【内井高弘】
諸外国に比べ、PCR検査やワクチン接種などで対応のまずさが指摘されるわが日本。国民の我慢にも限界がある(昨年秋、成田空港で)