年々増加する外国人観光客。そのインバウンド消費によって日本中が湧いているが、あまりに急激な市場の成長に、日本の受け入れ態勢が追いついておらず、さまざまな摩擦が生まれているのも事実だ。いわゆる「オーバーツーリズム」と呼ばれる問題だが、今年10月、東京・新宿御苑で判明した事件はご存知だろうか。
新宿御苑の元男性職員が「外国語が話せず、過去に怒鳴られてから外国人が怖くなった」として外国人観光客から入園料を徴収しなかったのだ。その期間は2014~16年に及び、人数にして16万人分、総額約2500万円の未徴収があったことが発覚した。
その根底にあるのは「ゼノフォビア」という概念で表せられる。ユネスコによれば、ゼノフォビアとは「見知らぬ人を恐れる」というギリシャ語を語源としており、外国人を受け入れた社会が直面する感情的な軋轢(あつれき)だという。人種差別との違いは、人種や身体的な特徴よりも「自分の属する社会に異質なものをもたらすことに反応する」点だとされている。海外では、このゼノフォビアが暴力的な形で発露する場合もあるが、日本の場合は今回のケースのような形で発露しうると考えられる。
なぜ新宿御苑のケースがゼノフォビアに該当すると考えられるのか。それは「コミュニケーションを一方的に断絶」しているためだ。観光庁の外国人観光客を対象としたアンケート調査でも、近年このコミュニケーション不全が不満点として急上昇中であり、問題の根深さがうかがえる。
これを解決するために、アメリカやオーストラリアなどでは公共通訳サービスなどの制度がある。多民族国家において、コミュニケーションの断絶は無用な軋轢のもとになるからがゆえの制度なのだろう。日本で、この制度をすぐに取り入れるのは難しいだろう。しかし、まずは「相手と自分の常識が異なる」「言わなければ伝わらない」という前提で、接客サービス・システムを構築していくことは、これからの観光業界ではどの業態であれ必要になってくるだろう。