JTBコミュニケーションデザインは1月15日、女性管理職の本音とマネジメント行動に関する調査の結果を発表した。
このたび、JTBグループで様々なコミュニケーションサービスを提供する株式会社JTBコミュニケーションデザイン(以下JCD)は、ワーク・モチベーション研究所にて、~女性管理職の実像と本音~vol.2「女性管理職の本音とマネジメント行動に関する調査」をまとめました。2023年11月に発表したvol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」との比較検討も行っています。
<主な調査結果>
- 【管理職のモチベーション】
1. 女性上司がいる管理職のほうが「今の仕事が好きである」と回答する割合が高い
非管理職の調査結果とも一致
「今の仕事が好きである」という項目について、管理職の51.3%が肯定回答を選択しました(小数点第2位以下を四捨五入した数値であるため、グラフの数値の単純な足し算の結果とは異なる場合があります。以降の数値も同様です)。管理職の上司(上級管理職)の性別による差を見ると、女性上司のいる管理職のほうが男性上司のいる管理職よりも肯定する割合が高く、統計的にも有意な差を示す事となりました。
昨年発表した非管理職の調査結果(vol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」)でも、女性管理職のもとで働く非管理職のほうが、「今の仕事に喜びを感じる」「今の上司の下にいるとやる気になる」と回答する割合が高く、今回の管理職自身の調査結果と一致していました。
管理職であっても、自身の上司が女性であるほうが仕事が好きと感じており、モチベーションが高い可能性が示されました。
- 【組織の女性管理職比率とモチベーション】
2. 女性管理職比率が3割以上の会社では、男性の管理職、男性の非管理職もモチベーションが高い
「今の会社には管理職の中に女性が3割程度以上いる」と回答をした人ほど、モチベーションが高いことがわかりました。管理職と非管理職を合わせた2,062人のデータも同様の結果となりました。さらに男性管理職、男性非管理職だけを取り出しても同様でした。また、「今の仕事が好きである」という項目についても女性管理職比率が3割以上の人のほうが肯定的な回答が多い結果でした。
会社に女性管理職が多く存在することが、管理職にとっても非管理職にとっても、モチベーションに良い影響を与えている可能性が示唆されました。
- 【管理職がつくる組織風土】
3. 女性管理職のほうが、また女性上司がいる管理職のほうが「人間関係が良い」
「アイデアを提案しやすい」風土を作る意識が高く、非管理職の評価とも一致
管理職にどのような組織風土を作ろうとしているかをたずねました。「自部門の中で、よい人間関係が保たれることを目指している」(肯定割合:女性管理職73.4%>男性管理職66.8%)、「自部門が、新しいアイデアや企画を提案したり、実行したりしやすくなることを目指している」(同:66.9%>60.4%)といずれも女性管理職が優位であり、女性管理職のほうが人間関係に配慮したり、イノベーティブな職場づくりへの意識が高いと考えられます。
管理職の上司の性別で比較すると、女性上司のいる管理職のほうが「自部門の中で、よい人間関係が保たれることを目指している」(肯定割合:女性上司のいる女性管理職80.6%、女性上司のいる男性管理職83.8%)、「自部門が、新しいアイデアや企画を提案したり、実行したりしやすくなることを目指している」(同:70.9%、80.6%)など、いずれも女性上司を持つ管理職の方が肯定割合が高く、管理職自身の性別、そして管理職の上司の性別が組織風土に及ぼす影響が示されました。
非管理職の調査結果(vol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」)でも、女性管理職のもとで働く非管理職のほうが自部門の風土に関して、「入社・異動してきたばかりの社員や若い社員が生き生きと働いている」「新しいアイデアや企画を提案したり、実行したりしやすい」と回答する割合が高く、また女性上司がいる女性は「人間関係がよい」と回答する割合が高く、今回の管理職自身の調査結果と一致していました。
- 【管理職が必要としているもの】
4. 管理職として必要としているもの、1位は職場の良好な人間関係、2位は知識・経験
「管理職として仕事をするために必要としているもの」を3つまで選んでもらったところ、「職場の良好な人間関係」「自身の知識・経験」が上位となりました。
女性管理職についてみると、「適正に評価されること」「私生活や休養の時間がとれること」「相談できる人の存在」が、男性管理職より多く選ばれていました。
非管理職の調査結果(vol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」)でも、上司についてよいと思う項目を3 つまで選んでもらったところ、全体での1 位は「相談がしやすい」(39.1%)、次いで「仕事の知識・経験が豊富である」(29.7%)、「部下の私生活を考慮してくれる」(25.4%)という結果となり、相談しやすさという人間関係に関する項目が最も多く選ばれていました。今回の管理職自身が必要としているものとの傾向と共通する点があると考えられます。
- 【管理職の孤独と人脈】
5. 仕事中の孤立感、管理職の33.2%が持つ
社内人脈に助けられる管理職59.7%、社外人脈を持っている管理職48.8%
女性管理職のほうが社内人脈を持つ割合が高い
「仕事をするとき、孤立しているように感じることがある」について全体の33.2%が肯定回答を示しました。自身の性別、上司の性別では統計的に意味のある差はありませんでした。
「社内の人脈(お互いに助け合う人間関係)に、助けられることが多い」では全体の59.6%が、「今の会社以外に、人脈(お互いに助け合う人間関係)を持っている」では全体の48.7%が肯定回答を示しました。「社内の人脈」については女性管理職のほうが肯定する割合が高いことがわかりました(女性管理職63.1%>男性管理職56.1%)。
6. 「もし経営に携わることになったら、と考える」管理職、全体の34.2%
男性管理職のほうが肯定割合が高く、男女とも若い管理職ほど肯定割合が高い
「自分がもし今の会社の経営に携わることになったら、と考えることがある」の割合は全体で34.2%にとどまりました。男性管理職36.5%、女性管理職31.8%と男性管理職の方が高い結果でした。上司の性別による統計上の有意な差は示されませんでした。
また男女とも、60代を除き年代が若い管理職ほど肯定割合が高いこともわかりました。
- 【管理職のダイバーシティ感覚】
7. 女性管理職、および女性上司のいる管理職(男女問わず)は、女性管理職の広がりを認識し、ダイバーシティへの意識が高い
「自分の身のまわり(友人や家族・親戚、地域コミュニティなど)では、女性が管理職になることは、違和感なく、受け入れられている」「ダイバーシティを受け入れ、尊重することは大切だと思う」などの意識は、いずれも女性管理職、および女性上司のいる管理職(男女とも)のほうが肯定回答が多い結果となりました。
自身が女性で管理職を務めていたり、上司が女性である場合には、自分の身のまわりでは女性管理職の存在が受け入れられていると認識し、且つダイバーシティの重要性にも意識が高いと考えられます。
なお非管理職の調査結果(vol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」)でも、「自分の身のまわりでは、女性が管理職になることは、違和感なく、受け入れられている」について、女性上司のいる部下(男女とも)のほうが肯定回答が多いことがわかっており、今回の管理職対象の調査結果と一致しています。
- 【調査対象者】
女性管理職、男性管理職それぞれ515人、計1,030人にアンケート調査を行いました。
全国の生活者19,549人に事前調査を行い、女性管理職と男性管理職各515人、計1,030人を抽出しました。
1,030人中、上司を持たない28人を除いた1,002人の管理職について、その上司の性別をみると、上司が女性のケースが19.6%、上司が男性のケースが80.4%となっています。
主な特徴としては、年齢では女性管理職のほうが30代、40代が多いこと、職種では女性管理職のほうが顧客対応・サービス系が多く、男性管理職のほうが技術・開発・製造系が多いこと、役職では女性管理職のほうが係長・主任クラスが多く、男性管理職のほうが部長・本部長クラス、課長・次長クラスが多いことが挙げられます。
- <まとめと提言>
女性の上級管理職を増やし、組織全体の風土向上につなげる
社内コミュニケーションを活性化させ、マネジメントの効果を高める
男女とも若い管理職にも経営参画の機会を
管理職自身に広く多様な視点を
内閣府は2023年6月、男女共同参画の推進に向けた重点方針「女性版骨太の方針2023」を示し、この中で、東京証券取引所の最上位「プライム市場」に上場する企業は、女性役員を1名以上選任するよう努め、2030 年までに女性役員の比率を 30%以上とすることを目指すとしています。
本調査では、管理職の上司の性別が、管理職の意識と行動に影響を与える可能性が示され、女性の上級管理職が増加することの意義が示唆されました。「女性版骨太の方針2023」の実現が日本の産業組織にとっていかに重要であるかを示すことになりました。本調査の結果から見えてくる、今後の組織の在り方について考えます。
- (1)女性の管理職、特に上級管理職を増やし、組織全体の風土向上につなげる
女性上司がいる管理職は今の仕事が好きであり、また人間関係がよいイノベーティブな風土をつくる可能性が示唆されました。非管理職の調査結果(vol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」)においても、女性上司がいる非管理職はモチベーションが高く、自部門の風土について新人が生き生きと働き、新しいアイデアを提案しやすいと評価しており、今回の管理職対象の調査と一致する結果を示しました。
女性管理職が増えること、さらに上級管理職の中にも女性が増えることは、組織全体のモチベーションを高め、有益な風土をつくることにつながると考えられます。
また女性管理職比率が3割以上の会社では、男性もモチベーションが高いことがわかりました。女性管理職の増加は、男性にとって自身の昇進機会を脅かす懸念材料ではないかという議論もありますが、本調査では女性管理職比率は男性にもよい影響を与えている可能性が示されました。その理由の一つとして考えられるのは、女性も適切に登用されることが、従業員全体を公正に評価する組織の姿勢として従業員に伝わるということです。こうした組織のメッセージは男女ともにモチベーションを上げるものになるでしょう。また多様性の持つ価値が発揮されていることも理由になりうると考えられます。社内における様々な会議に男女問わず参加する事で、多様な視点での議論が良い結果を導き出すだけでなく、仕事への面白さややりがいにもつながるとも考えられます。
上級管理職や経営層に女性が存在することは、上記のような多様性の価値が組織経営にも投入されることになります。会社の未来の方向性を価値あるものに変えていく大きな一歩になるでしょう。
- (2)社内コミュニケーションを活性化させ、マネジメントの効果を高める
管理職が必要とするものの1位に「職場の良好な人間関係」が挙げられました。2位は「知識・経験」、3位は「自身のリーダーシップ」でした。このランキングを見ると、人間関係の重要性をあらためて認識させられます。IT技術の進化とコロナ禍によるオンライン勤務の普及によりコミュニケーションの量や質が大きく変わりました。また、従業員の雇用形態や働き方、職業観も多様になり、意思疎通において新たな工夫や考え方が必要とれています。このような中管理職にとっては、最も必要だと思うものが「良好な人間関係」なのでしょう。人間関係というインフラが整っていれば情報が得やすく、意思決定を伝えやすく、指導もしやすく、結果としてマネジメントの成果を出しやすい環境となると思われます。また、適切な人員配置や仕事量の割り振りにより安心して働ける組織づくりも、良好な人間関係の基盤となります。
組織においては、管理職のマネジメントが効果を発揮できるようなコミュニケーション施策の導入が求められます。オンラインコミュニケーションツールの整備や場の設定、そして出社した社員が業務での接点だけでなく、雑談ができるような環境を整えることも有効でしょう。また、トップからのメッセージ発信や組織のビジョンを浸透させることで一体感の醸成をはかることも大切です。コミュニケーションを活性化させるインナーイベントの開催も社員の印象に残り、その後の行動に影響を与えるでしょう。
- (3)若い管理職にも経営参画の機会を
「自分がもし今の会社の経営に携わることになったら、と考えることがある」は全体で34.2%となりました。男女とも、60代を除く若い世代の管理職ほど意識が高いこともわかりました。こうした意識は活かすべきと思われます。経営トップとの直接対話の機会を設けたり、取締役会へのオブザーブ参加をさせたり、コミュニティを通じて経営施策の提案を行う機会を提供するなど組織に合わせて様々な形が考えられます。組織経営の中に若い管理職の視点が入ることは、経営の方向や手法を検討する際の情報の多様性を高め活性化する可能性があるでしょう。また管理職にとっても自身が経営の中心近くに居ることの実感は大きなモチベーションとなり学びと成長を促進するでしょう。
仕事中に孤立感を持つ管理職も全体の3割以上いることがわかりました。経営への参画意識を持つことで、組織の中心とのつながりを感じることはこうした孤立感を減少させる可能性があります。経営参画の機会に管理職同士の横のつながりや他部門の上級管理職との斜めのつながりができることで社内人脈が形成されることも、孤立感の軽減や部門間同士の連携や協働を促進するでしょう。
- (4)管理職に広く多様な視点を持たせる
女性管理職および女性上司のいる管理職(男女問わず)のほうが自分の身のまわりで女性が管理職になることは違和感なく受け入れられていると感じ、またダイバーシティの重要性を強く認識する人が多く、男性上司のいる男性管理職はこれらの意識が相対的に低い状況でした。自身の性別や職場環境が、ダイバーシティの感覚に影響を与えている可能性があります。また、社外人脈を持っている管理職は全体の半数以下にとどまりました。中核的な役割を担う管理職には、外の広い世界を見せ体験させる施策を実施する必要があります。複数の企業から受講者が集まる教育の場や議論の場を活用したり、他社の職場を体験するインターンシップ制度導入するなどいくつかの方法が考えられます。管理職が狭い視野にとらわれることのないよう工夫をする必要があるでしょう。自身の職場のことだけでなく、広く様々な組織のありようを理解し、社外の知見や支援を取り入れ、多様な視点でものごとを見ることが必須と考えられます。