JTBコミュニケーションデザインは11月13日、「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」の結果を発表した。
組織の健全な運営、発展において、多様な人が多様な価値観と能力を活かして働くことは重要課題の一つです。中でも女性が生き生きと働き、管理職や経営職の立場にも登用され活躍することは、組織全体の活性化、そして男女関わりなく働きやすく働きがいのある職場づくりにつながります。しかし、厚生労働省の雇用均等基本調査によれば、企業の課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は、2022年度には12.7%と非常に低い水準で推移しています。女性の活躍支援のために何が必要かを知るためには、職場での男女別の意識や女性管理職がどのような立場にあるのかを知ることが、その第一歩になると考えられます。
このたび、JTBグループで様々なコミュニケーションサービスを提供する株式会社JTBコミュニケーションデザイン(以下JCD)は、ワーク・モチベーション研究所にて、~女性管理職の実像と本音~vol.1「部下から見た女性管理職のマネジメントに関する調査」をまとめました。本調査では女性管理職に対する部下からの評価を男性管理職と比較し、さらに当研究所において2009年に実施した同様の調査と比較する事で、14年を経た状況の変化を分析しました。
なお女性管理職自身を調査対象としたvol.2「女性管理職の本音とマネジメント行動に関する調査」についても、今後発表する予定です。
<主な調査結果>
1.女性上司がいる部下は「今の仕事に喜びを感じる」と回答する割合が高い
女性上司がいる部下は男女とも、「今の仕事に喜びを感じる」と回答する割合が高い
女性上司がいる女性は「今の直属の上司の下にいると、やる気になる」と回答する割合が高い
全国の非管理職1,032人に、「今の仕事に喜びを感じる」という項目にどれだけあてはまるかを聞いたところ、「あてはまる」「ややあてはまる」という回答する割合が、女性上司のいる部下で高い傾向が見られました。2009年には上司の性別に関わらず男性部下のほうが高い傾向でしたが、今回は女性上司のいる男性および女性のほうが高くなりました。但し全体に肯定回答の割合が、2009年より低下していました。
「今の直属の上司の下にいると、やる気になる」割合は、特に女性上司がいる女性で高い結果でした。
2.女性上司は新人が生き生きと働き、新しいアイデアを提案しやすい組織風土を作る
女性上司がいる部下は、「入社・異動してきたばかりの社員や若い社員が生き生きと働いている」「新しいアイデアや企画を提案したり、実行したりしやすい」と回答する割合が高い
今所属する部門の組織風土について他の部門と比べてどうかをたずねたところ、「入社・異動してきたばかりの社員や若い社員が生き生きと働いている」「新しいアイデアや企画を提案したり、実行したりしやすい」については、女性上司がいる女性のほうが男性上司がいる女性よりも高く、女性上司がいる男性のほうが男性上司がいる男性よりも高くなりました。
「人間関係がよい」は、特に女性上司がいる女性で、肯定割合が高い結果でした。
女性上司の作る組織風土が部下のやる気や仕事への姿勢に影響を与え、前述の女性上司がいる部下は「今の仕事に喜びを感じる」「今の直属の上司の下にいるとやる気になる」と回答する割合が高いという結果につながったと考えられます。
3.女性上司は、女性部下からの評価が高い
「相談がしやすい」「仕事の知識・経験が豊富」「部下の私生活を考慮してくれる」等の項目で、高い評価
上司についてよいと思う項目を3つまで選んでもらったところ、全体での1位は「相談がしやすい」(39.1%)、次いで「仕事の知識・経験が豊富である」(29.7%)、「部下の私生活を考慮してくれる」(25.4%)となりました。これら上位3項目のすべてにおいて、女性上司は女性部下からの評価が高い結果でした。
2009年と比較すると、「仕事の知識・経験」「私生活を考慮」の割合は減り、「相談がしやすい」が突出する結果となりました。現代において、相談しやすいことが上司への評価の中で大きな意味を持つ可能性が示されました。このことから、「今の直属の上司の下にいるとやる気になる」と答える割合が特に女性上司がいる女性で高かったことにもつながっている可能性も考えられます。
4.女性上司の部下は、管理職になるとやりがいが増し、成長できるという回答が多い
一方で、勤務時間が長くなるだろうとの回答も多く、女性部下は、ストレスが強くなるだろうと懸念示す。
女性上司の部下は、「管理職になると仕事のやりがいが増すと思う」「人間的に成長できると思う」とポジティブな回答をする割合が高い。しかし「勤務時間が長くなるだろう」というネガティブな回答も多く、また上司の性別に関わらず女性部下は、「仕事のストレスや不安が強くなると思う」という回答の割合が高い。
管理職になるとどうなると思うかをたずねたところ、「仕事のやりがいが増すと思う」「人間的に成長できると思う」という回答は全体の約4割程度となりました。一方、全体の約8割が「仕事のストレスや不安が強くなると思う」「勤務時間が長くなると思う」と回答しました。特に女性上司がいる部下の方が、「勤務時間が長くなると思う」という回答の比率が高く、また上司の性別に関わらず女性部下は「仕事のストレスや不安が強くなると思う」の比率が高い結果でした。
しかし同時に、ポジティブな回答も女性上司がいる部下の方が多く、「仕事のやりがいは増すと思う」(肯定計、女性部下43.4%:男性部下38.3%)、「人間的に成長できると思う」(同、53.9%:43.8%)などで男性上司の部下を上回りました。
女性上司がいる部下は、管理職になることに仕事のストレスや勤務時間の増加というネガティブな考えを持つ一方で、やりがいや成長の面でポジティブな考えも持っている事が示されました。
5.「上司の性別は気にならない」61%、2009年より8.7%増加
男性上司がいる女性は、女性上司(自分と同性の上司)には否定的な傾向
女性上司がいる男性は特に、「上司の性別は気にならない」と回答する割合が高い
「同性の上司のほうが仕事がしやすい」という回答は、全体では26.9%と2009年と同程度
「上司の性別は、特に気にならない」と答えた人は全体で61%と、2009年よりも8.7%増加しました。特に女性上司のいる男性部下では67.9%と7割近くが気にならないと回答しています。
「自分と同性の上司の方が、仕事がしやすい」と回答したのは、2009年と同程度の26.9%でした。一方、男性上司がいる女性では否定回答が32.6%と、3人に1人は自分と同性の上司(女性上司)に対するネガティブな意識がある傾向を示しましたが、2009年の55.5%からは大幅に減少しています。
6.女性管理職の存在、女性上司の部下は「違和感ない」男性上司の部下は「あまり見聞きしない」
地域による差はない
自分の身のまわり(友人や家族・親戚、地域コミュニティなど)で、女性が管理職になることがどう受け止められているかをたずねたところ、女性上司がいる部下は「違和感なく受け入れられている」と回答する割合が高く、男性上司がいる部下は、「あまり見聞きしないことだ」と回答する割合が高い結果でした。
この結果を都市部(大都市部:埼玉県、千葉県、東京都(島嶼部除く)、 神奈川県、愛知県、大阪府)とそれ以外、市内・区内とそれ以外で見ると、顕著な差異は示されませんでした。
地域による差異よりも、自分の上司が女性か否かが、女性管理職の存在全体への認識に影響している可能性が示唆されました。
【調査対象者について】
上司と部下の性別の組み合わせごとに回答者を確保するために、全国の生活者19,549人に事前調査を行い、女性上司がいる女性非管理職・男性非管理職、男性上司がいる女性非管理職・男性非管理職、計1,032人(各セル258人×4セルの均等標本)を本調査対象として抽出しました。
上記により抽出された 1,032人の上司の性別と本人の性別、年代、勤務先の従業員規模、職種、都市部・都市部以外は、下図の通りとなります。傾向としては、従業員規模に大きな違いは見られませんでしたが、年代に関して女性の回答者は「30代」の割合が多く、職種では男性上司がいる男性で「技術・開発・製造系」が多く、都市部・都市部以外では女性上司がいる女性は「都市部以外」が若干多く、女性上司がいる男性で「都市部」が若干多い結果でした。
<まとめと提言>
女性管理職比率を適正な水準に保ち、女性管理職の良い側面を全体に広げる
採用ブランディングを向上させ、人材を確保する
女性管理職も男性管理職も働きやすい環境を整え、次世代管理職を育成する
会社の枠にとどまらない広い視野を持つことが、多様性向上に
1999年に施行された男女共同参画社会基本法は「男女共同参画」を、男女が社会の対等な構成員として、社会活動に参画する機会が確保され、均等に政治、経済、社会的利益を享受する事で、責任を担う社会の実現を目指してきました。しかし20年以上が経過した今、その実現には程遠く男女平等の実現度を示す「ジェンダー・ギャップ指数」(世界経済フォーラム発表)で、日本は146カ国中125位(2023年)と非常に低い水準であり、管理職に占める女性の割合は12.7%(2022年)という状況です。
本調査では、女性管理職の部下と男性管理職の部下の回答を比較し、女性管理職の行動とマネジメントの特徴を探りました。調査結果から女性も男性も同様に働きやすく、働きがいのある組織を作るためにどうすべきかを考えます。
(1)性別に関わりない適切な評価・登用で女性管理職比率の向上を
女性上司がいる部下は、仕事に喜びを感じると回答する割合が高く、自部門の組織風土についても新人や若い社員が生き生きと働き、新しいアイデアを提案・実行しやすいと答えました。背景の一つとして考えられるのは、女性管理職がいる組織は性別に関わりなく社員を評価し管理職にも登用するような組織であり、そこでは社員のモチベーションが高く、組織風土も良好に保たれていることです。もう一つの可能性は、女性管理職のマネジメントの特徴が、部下のモチベーションを向上させ、組織風土を良好に保っているということです。どちらであったとしても、女性管理職比率が適正であることは、人事運用や人材育成を始めとした組織運営がうまく機能していることの一つの証であり、また女性管理職のマネジメントが組織全体に好影響を与えている可能性を示すものでもあります。
(2) 女性管理職の良い側面を会社全体に広げ、「相談がしやすい」仕組みとマインドを
女性管理職が行っているマネジメントの中で成果につながっている側面を、他の管理職も取り入れることで、組織全体に良い影響が及ぶことが推測できます。上司の良いところとして第1位に挙げられた「相談がしやすい」という点は、今後管理職が意識すべき重要なポイントと思われます。多様化し変化し続ける顧客ニーズやマーケット動向に対応する社員にとって、タイムリーに相談できる上司の存在は、仕事の上でも、心身の健康の上でも、大変重要です。特に新人や若い社員にとって、上司が相談しやすいことは大きな意味を持つでしょう。相談方法としては、対面やメール、チャットなど複数あることや、相談しても否定されたりしないという安心感があることなどが重要です。またこれらは、上司だけでなく先輩や同僚との間でも必要な要素です。管理職自身が率先して相談しやすい雰囲気を作ることで、社内におけるコミュニケーションが活発化し、より良い組織風土の醸成につながるでしょう。
(3)男女ともに働きやすい・働きがいのある組織として、採用ブランディングを向上させる
近年の深刻な人手不足は多くの組織にとって経営を圧迫する要素の一つです。組織に合った人材を採用し、且つ人材を確保し続けることは組織経営の重要な課題と言えます。
女性管理職の比率が適正であることは、男女ともに働きやすく働きがいのある職場であることの証であり、人材採用におけるブランディングを高める要素となります。さらに女性管理職が作り出す新人や若い社員が生き生きと働き、新しいアイデアを提案・実行しやすい風土も、採用への応募を考える人たちにとって魅力的な内容でしょう。そういった風土は、離職の可能性を減らす可能性もあり、人材確保や維持に貢献すると思われます。またその結果、社員の平均勤続年数が伸びれば、その数値も応募者にとって訴求力のあるものとなり、採用への好影響が期待できます。
(4)管理職も仕事のストレスが軽減され、適正な勤務時間で働ける環境を整え、次世代管理職の育成を
次世代の管理職候補が育つためには、非管理職社員が「管理職になりたい」というモチベーションを持つことが必要です。今回の調査では全体の約8割が、管理職になったら仕事のストレスや不安が増す、勤務時間が長くなるというネガティブな認識を示し、やりがいが増す、成長できるというポジティブな回答は全体の約4割にとどまりました。こうした認識が変わらなければ、管理職になりたいというモチベーションは上がりにくいと推測されます。管理職の負担を軽減し、適正な勤務時間で働くことができる業務フローや組織の体制を築くことが労務管理上も、そして次世代の管理職育成のためにも重要なことです。管理職の業務量や権限の見直し、社内の指示と報告の流れの適正化、IT技術を活用した業務の簡略化などが対策の一つとなるでしょう。
女性管理職の部下、特に女性は、管理職になることへのネガティブな認識が強い一方で、ポジティブな認識も高いことなど日常の仕事の中で複雑な思いを持っていることが想像できます。ネガティブな認識からポジティブな認識へと変換させ、自身も管理職として活躍することを目指せるような職場環境を整えることが大切です。
(5)会社の枠を超えた広い視野を持ち、組織の多様性、働きやすさ・はたらきがいを向上させる
上司の性別は気にならないという認識は、2009年の調査よりも減ったものの、全体の6割にとどまりました。特に男性上司がいる女性は、「同性の上司のほうが仕事がしやすい」という項目に「あてはまらない」という回答をする割合が高く、自分と同性の上司には否定的な傾向が見られました。伝統的な日本の職場の風景を見慣れていると、女性上司という見慣れない存在に違和感を持つことも要因の一つになっていると考えられます。
さらに、自分の身のまわり(友人や家族・親戚、地域コミュニティなど)で、女性が管理職になることがどう受け止められているかについて、女性上司がいる部下は「違和感なく受け入れられている」と答え、男性上司がいる部下は、「あまり見聞きしないことだ」と答える割合が高い結果でした。職場での自分が置かれた状況を、スタンダードだと認識している可能性があります。多様性が進んでいる企業においては、女性の管理職は既に当たり前の存在になっているのかもしれません。
私たち一人一人が自分の日常の世界だけでなく、時には自分の会社の常識を見直し、社会全体や世界の潮流を感じたりすることで、視野が広がり少し先の未来への想像がふくらみ、自分の職場を働きやすい場所にすることにつながるのではないでしょうか。会社の取り組みとしても、他社や他業界と交流する機会を設けたり、多様な視点を入れ現在の業務や慣習を見直すことが、私たちの職場や社会全体を良い方向に向けていくと思います。