前回に引き続き、インボイス制度の賢い対応法について説明しよう。来年10月1日よりインボイス制度が導入される。インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式をいう。今回の制度改正は旅館・ホテルの日常業務に大きな影響を与えるものである。また、情報システムの改修も必要となってくる。今のうちから理解を深め準備を進めておこう。
インボイス発行事業者が発行した請求書や領収書等(適格請求書)の保存や標準税率(10%)、軽減税率(8%)を区分した帳簿の保存(区分経理)は、小規模施設にとって面倒なものだ。課税売上高5千万円以下ならば簡易課税も選択肢に入ってくるが、観光事業者にとってリスクがあることを注意しておきたい。
一つが、設備投資に伴う消費税還付が受けられなくなるということだ。事業者における消費税の納税額は、課税売り上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を引くことで計算できる。高額の設備投資を行うと、仕入れに係る消費税が課税売り上げに係る消費税を上回ることになり、支払った消費税の一部が還付される。施設を増改築すると消費税の還付額が1億円を超えることも珍しくない。適格請求書の保存が不要な簡易課税の場合は、この還付制度が利用できないので注意しよう。
もう一つが、人件費の割合が低いと簡易課税は損をするということだ。簡易課税では、課税売り上げに係る消費税額の50%ないし60%を仕入れに係る消費税としてみなす(みなし仕入れ率)。課税売り上げ4千万円、みなし仕入れ率60%ならば、160万円消費税を納税することになる(4千万円×(1―60%)×10%)。しかし、人件費の割合が低く、課税仕入れの額が3200万円(仕入れ率80%)ならば、一般課税では80万円消費税を納税すれば良いことになる(4千万円×(1―80%)×10%)。
最近は、食事提供よりも客室の高付加価値化による単価アップを目指す施設が増えており、売上高に対する人件費率は低下していく傾向にある。インボイス制度への対応が面倒だからと安易に簡易課税を選択してしまい、逆に消費税の納税額が増えてしまうことにならないよう注意しよう。
(アルファコンサルティング代表取締役)