【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 688】宿泊料金の値上げ方法〈6〉 青木康弘


 前回に引き続き、円滑に値上げするための方法を紹介しよう。多くの旅館・ホテルで値上げが実施・検討されているが、人件費や水道光熱費、工事費をはじめとする多くの費用が宿泊料金の上昇を上回るペースで大幅に値上げされている。速やかに対策を講じなければ、赤字に転落するリスクもある。

 高単価を実現している施設は、ターゲット層が明確で、お客さまが何を望んでいるかをよく研究している。顧客が望むことには徹底的に力を入れ、手を抜くべきところは徹底的に手を抜く。ターゲット顧客に絞った施策は、その客層の満足度を高め、高評価の口コミによる波及効果で客室単価や客室稼働率の向上が期待できる。また、メリハリをつけることで余計な設備投資や経費の支出を抑え、利益率の向上にもつながる。

 例えば、都市部に住む高所得で意識の高い家族(夫婦と小学生2人)をターゲット顧客に設定するとしよう。コンセプトとして求められるのは、エコフレンドリーな施設、オーガニックやローカルフード、健康やウェルネス、アクティブな活動、清潔で新しい客室、地域コミュニティとの連携などである。一方で、求められないものは、高価な調度品、時間のかかるコース料理、客室係の接遇などである。家電製品にはこだわりのある高価なものが好まれる。コース料理が好まれない理由は、普段食べ慣れていないことや、食事時間が長く子供が嫌がるからである。

 旅慣れていない、結婚前または結婚後間もない20代から30代初めのカップルをターゲットにする場合、求められるものは全く異なる。コンセプトとして好まれるのは、身近な味の料理、分かりやすい典型的なローカルフード、記念写真に適したパブリックスペース、館内の過ごし方の分かりやすさ、貸し切り風呂、気軽に楽しめるアクティビティなどである。一方で、求められないものは、本格的な和食コース、高価な内装・調度品、高額な特別室、こだわったアルコールメニュー、本格的なアクティビティなどである。

 インバウンドをターゲットにする場合も、具体的な顧客像を持つことが重要である。例えば、経済的に豊かなヨーロッパからの観光客をターゲットにする場合、求められるコンセプトは、伝統的な日本建築や内装、日本の文化を体験できる活動、パーソナライズされたサービス、プライベートな温泉露天風呂、ガストロノミー、魅力的なアートや伝統工芸品、充実した外国語対応などである。一方で、求められないものは、洋風化された外観・内装・客室、ビジネスホテルの実用的なサービス、過剰なテクノロジーの活用、子供向けのプレイエリアなどである。

 このように、ターゲット層によって取り組むべきコンセプトは大きく異なる。今回事例で挙げたターゲット層以外にもさまざまなものがあるため、皆さまの地域や施設の特性に合わせて設定してほしい。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 

 
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