旅館・ホテル業界が、コロナ前の業績を超えて急回復しているのは大変喜ばしいことである。施設によっては、過去最高の利益となったという声も聞く。しかし、気の緩みは禁物である。「勝ってかぶとの緒を締めよ」という言葉が示すように、一度成功を収めたからといって油断してはならず、新たな課題が突如として現れる可能性がある。今回コラムでは、現在の高収益を維持し、さらなる発展を目指すために取り組むべきことをいくつか紹介したい。
(1)建て替え資金の確保
利益が出たからといって際限なく設備投資をしてしまうと、将来的に過剰な債務を抱えるリスクがある。この数年間、補助金の恩恵は大きかったものの、設備投資の半分は自己資金や借り入れによって賄われている。資材高騰に伴う工事費上昇や、補助金につけ込んだ工事費の便乗値上げも横行していたため、実際に投資した額に見合う効果を得られなかった例も少なくない。一時的な改装ブームに流されず、投資が回収可能なものか検証しておきたい。
当面の間は内部留保の充実を目標にすることをお勧めする。目標水準は、現在の建物の状況や、今後の建て替えや増築のタイミングにより異なる。例えば、築40年を経過し、今後10年以内に建て替えを考えている50室規模の旅館を想定してみよう。現在の工事費の相場から想定すると、再建築には最低でも20億円の費用がかかる。金融機関から円滑に融資を受けるためには、少なくとも4億円の自己資金が必要になるだろう。
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