【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 732】海外資本の進出と国内旅館・ホテルの課題(1) 青木康弘


 旅館・ホテル業界において、M&Aや中古不動産の取得は事業拡大を行うための有効な手段の一つである。しかし、海外資本の参入により取引価格が高騰し、国内資本の旅館・ホテルはなかなか手が出せない状況になっている。

 2010年代初頭には、投資利回りが15%以上であっても買い手がつかない施設は珍しくなかった。しかし現在では、立地や建物の仕様が投資家の好みに合うものであれば、利回りが3%を下回るような物件でも即座に買い手がつく状況となっている。単純計算で不動産価格が約5倍に跳ね上がったことを意味し、ホテル不動産市況の過熱化を示すものと言える。

 この背景には、2015年以降の訪日外国人観光客の急増がある。訪日外国人客数はコロナ禍の影響で一時的に落ち込んだものの、パンデミック後の急回復によってコロナ前を上回る活況を呈している。この動向を受けて、海外投資家が日本のホテル投資に強い関心を寄せるようになった。2023年には、海外投資家が日本のホテル案件に約2900億円を投じ、アジア全体の事業用不動産セクターにおいて最高の投資額を記録した。

 こういった環境下で、皆さまがM&A仲介業者や不動産業者、金融機関から中古施設の購入を提案された際には、価格の妥当性を慎重に見極めることが求められる。専門家の提案だからといって、必ずしもそれが適正価格であるとは限らない。相場感として妥当な価格に見えても、実際に金融機関からの借入金を返済した後に十分な収益が確保できる保証は何もない。購入者自身で詳細調査を行い判断する必要がある。

 親しい銀行の支店長や信頼している仲介業者の話だからといって、盲目的に信用するのは危険である。不動産取引は多額の資金を要するため、常に冷静な判断が求められる。

 不動産の取得にこだわりがないならば別の選択肢もある。たとえば、賃貸やマネジメント契約(MC)による運営を行うことで、初期投資を抑えつつ事業拡大を目指すことが可能である。現状では、不動産投資家に比べて質の高いオペレーターが不足しており、売り手市場が続いている。特に、高級旅館の運営ノウハウやチェーン本部組織を有する運営会社は、各地で引く手あまたである。

 賃貸やマネジメント契約(MC)による運営を強化していくには、自社のウェブサイトに開発案件募集のランディングページを設けることも有効な手段である。不動産投資家やデベロッパー、アセットマネジメント会社等から多数の問い合わせを受けることができる。魅力的な提携先を見つけて事業拡大への足掛かりを得ることができるだろう。

(アルファコンサルティング代表取締役)


(観光経済新聞11月25日号掲載コラム)

 
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