2024年は、コロナ禍の苦境を抜け出し、観光市場が年間を通じて正常化した年であった。多くの施設や観光地がようやく平時の状態を取り戻し、今後のさらなる発展に向けた基盤を築いた年でもある。これから迎える2025年はどのような年になるのだろうか。
2025年を展望すると、宿泊業界は新たな局面を迎える可能性が高い。為替相場の変動や国際的な政治情勢の不安定化を背景に、これまで順調に推移してきたインバウンド需要が頭打ちになるリスクも指摘されている。そのような不透明な環境下で持続的な成長を実現するには、過去の常識や成功体験にとらわれることなく、柔軟な発想で新たな戦略を立案する必要がある。
仮にインバウンド需要が停滞した場合には、国内観光客を再評価し、地域資源を生かした新たな観光体験を提供することが不可欠である。伝統文化や自然、食といった地域特有の根源的な魅力を磨き上げ、「単なる宿泊施設」から「地域との結節点」へと役割を広げることで、国内観光客の心をつかむことが求められる。
ここ数年間、高付加価値化を目的とした客室の改修が全国各地で大きく進展した。ハード面においては、ほとんどの施設が顧客を満足させる水準に達している。一方で、どの施設も似たり寄ったりのリニューアルにとどまり、顧客が施設を選びにくいという状況も生じている。経営者からは「客室は立派になったものの、莫大(ばくだい)な投資に見合うほど稼働率や客室単価が上がらない」という悩みの声も聞かれる。
2025年は、ブランド戦略と情報発信力の強化が避けては通れない課題となるだろう。単なる広告宣伝にとどまらず、旅館・ホテル業の枠を超えて地域の魅力と連携したコンテンツの創出と発信が求められる。客室改修であれば、予算を確保し優れた設計事務所や工事会社に任せれば成果を上げることができた。しかし、コンテンツ作りや情報発信については、外部に丸投げしていては優れた結果を得ることは難しい。
旅館とホテルの境界がますます曖昧になるなか、個性的なデザインや地域文化を取り入れたホテルが増加している。近年、国内外のホテルチェーンも日本市場におけるライフスタイルホテルの展開を加速させており、「自分たちは旅館だから」と油断していると、足元をすくわれる可能性がある。個性的な魅力を主張する競合施設との差別化を図るため、自館ならではの「ここにしかない価値」を創出し、的確に発信することが不可欠である。
(アルファコンサルティング代表取締役)
(観光経済新聞2025年1月1日号掲載コラム)