前回に引き続き、宿泊業が2025年に取り組むべきことを説明したい。2024年はコロナ禍の苦境を乗り越え、観光市場が年間を通じて正常化した年であった。多くの施設や観光地がようやく平時の状態を取り戻し、今後のさらなる発展に向けた基盤を築いた年といえる。
2025年以降、さらに深刻な課題となるのが人手不足である。厚生労働省の調査(2024年8月)によれば、宿泊業は他業種と比較して労働者不足の深刻度が際立っている。医療・福祉業界ほどではないものの、人手不足が顕著とされる運輸業や建設業よりも厳しい状況にある。
人手不足の動向指数はリーマン・ショックの影響があった2009年を上回る水準となっている。新型コロナの流行により一時的に低下したものの、2024年8月の調査では2001年以降、過去最高を記録している。他業種との人材獲得競争が激化する中、宿泊業は「競り負け」しているといえる。
人材採用において重要なことは、単なる給与水準の見直しにとどまらない。柔軟な勤務体系、充実した福利厚生、スキルアップの機会提供など、総合的な職場環境の整備が不可欠である。単純な給与アップのみでは有能な人材を引きつけるのは難しい。スタッフのモチベーションを高め、離職率を下げるためには、柔軟な働き方の導入、福利厚生の充実、キャリア形成の支援といった多面的なアプローチが欠かせない。
ただし、人手不足の解決を待遇や職場環境の改善だけに求めるのは早計である。実際、経営者や幹部と現場スタッフとの不和が原因で退職が相次ぎ、人手不足に陥っている施設は少なくない。たとえ給与や労働環境を他業界より良好な水準にしても、現場スタッフの満足度が低ければ短期間で離職してしまう。
この問題の要因の一つとして、現場スタッフを機械的に扱い、雑務ばかりを任せる姿勢が挙げられる。デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、予約管理や顧客対応、事務作業などをロボットやAIで自動化する動きが加速している。だからこそ経営者や幹部は、スタッフとのコミュニケーションをより「ウエット」にすることが求められる。システムやAIに任せられる作業が増えれば増えるほど、人間同士のつながりが現場スタッフの意欲を左右する、いっそう重要な要素となるのだ。
(アルファコンサルティング代表取締役)
(観光経済新聞1月6日号掲載コラム)