
旅館・ホテルの顧客満足度は、滞在中の過ごし方に大きく左右される。なかでも、チェックイン後や夕食後といった自由時間に提供される体験やサービスは、宿泊全体の印象を決定づける要素となる。大規模施設であれば、館内イベントや地元を巡るツアーなどを十分な予算と人員をかけて実施できるが、中小規模の旅館・ホテルにとっては、同様の対応を行うのは簡単ではない。
そこで鍵となるのが、「限られたリソースでも実現できる滞在中サービスの設計」である。まずは、チェックインからチェックアウトまでの宿泊客の行動を時系列で整理し、「やることがなく、退屈を感じやすい時間帯」を特定することが出発点となる。
たとえば、15時にチェックイン、18時から夕食と想定すれば、16時から18時までは空白になりやすい。また、夕食後の20時から22時にかけても同様である。こうした時間帯こそ、満足度を高める余地が眠っている。
このような時間を価値あるひとときに変える手段として有効なのが、「気軽で記憶に残る無償の飲食サービス」である。たとえば、群馬県のある温泉宿では、チェックイン後にみそ味のこんにゃくスティックを提供し、地元らしさと手軽さで人気を集めている。同地域の郷土食「焼きまんじゅう」も同様で、中に餡(あん)は入っていないが、香ばしく焼いたまんじゅうにたっぷりとみそだれをかけたその素朴な味わいが宿泊客の関心を引いている。千葉県の旅館では「せんべい焼き体験」を実施し、子ども連れや若年層カップルから好評を得ている。
五感で楽しめる、こうした非日常体験は、共感を呼びやすく、写真映えや話題性も兼ね備えている。提供するメニューは、地域で昔から親しまれてきた、小腹を満たす簡単なおやつであることが望ましい。原価が安く、スタッフが簡単に準備できるうえ、地元らしさの演出にもつながる。
このような飲食サービスを有料オプションとせず、宿泊料金にあらかじめ含めるかたちで提供することが大切なポイントだ。コストや手間を抑えながらも、「気が利く宿」としての印象を残すことができれば、口コミ向上やリピート獲得につながり、ひいては宿泊単価の向上にも寄与するだろう。
(アルファコンサルティング代表取締役)
(観光経済新聞25年4月21日号掲載コラム)