【道標 経営のヒント108】旅館の断捨離と宝探し 佐々山茂


 旅館には布団、家具備品、食器など捨てるに捨てられない物が倉庫や廊下の片隅に積まれている。しかし、ほとんどが二度と使われることがなく、それらが占めている場所は売り上げに貢献しないばかりか、固定資産税は掛かり、借入金が残っていれば銀行に返済している。断捨離(だんしゃり)の出番だ。

 何年か前に浴室を新築した旅館では、古い大浴場に物が雑然と積んであった。ここは客室に改造する提案をしている。

 広間を食事処にしている旅館で、景色がまったくないと思い、障子を開けると広縁だったところを椅子式にしたために余った座卓が積んであった。片付けて障子を開けると景色が広がり、朝食の雰囲気が良くなった。

 また、小規模旅館を改修した折、ロビーが経営者の私物であふれていた。一度全て運び出し、本当に必要なものだけを戻した。これだけでもすっきりした。

 いま計画している旅館では長らく雑然としたバックスペースで使っていたところを館内で一番景色の良いサンセットラウンジに改修する。ビフォーアフターが楽しみである。

 倉庫には二種類ある。一時置き倉庫と保管倉庫である。問題は保管倉庫で、一度仕舞うと二度と使わないことが多い。機械室を倉庫代わりとしているところもよくあるが、火事になる危険がある。

 設計依頼があると楽しみの一つは宝探しである。使われていない空間や、誰も気付かない景色の良い場所がないか、館内や周辺を歩き回ってみる。無駄な空間を売り上げに貢献する施設にすれば有効な投資になる。

 先代は、景色の良いところ、土地の力のある場所を選んで旅館を建てている。景色の良い場所はもともと海岸だとか、山のへりとかで、厳しい自然と直接向き合う場所が多い。お風呂の立地は少し怖いぐらいがちょうどよいと思っている。

 昨年伺った旅館は、温泉街の中心で素晴らしい場所にあり、良質な温泉を豊富に持っているが、経営に行き詰っている。土地の力は申し分なくあるので、何とかしたい。

 ここしかないと思った場所が規制で建てられないときは行政と交渉をする。これが一番厄介だ。規制緩和と逆行しているのが現実で、最近はなかなか難しい。

 生産性向上から見ても施設の効率を上げる必要がある。製造業では雑然とした工場はなく、製品が変わればラインの組み直しを頻繁に行う。

 これからの個人旅行、インバウンドの滞在型に適応していくには土地の力、土地の魅力を感じられる場を提供する必要がある。旅館の持つポテンシャルを最大限に生かしたいと常に思う。断捨離と宝探しをしてはいかがだろう。

 
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