【道標 経営のヒント73】働き手がいない 宮坂 登


道標 経営のヒント

「働き手がいないから、お客さまにたくさん来られても十分な対応ができない。だから、ホームページもあえて強いアピールはしていない。集客方法が弱いのは分かっている。曜日によっては予約を止めることさえある」

「ホームページや販売促進の必要性は分かっているんだよ。でも、それ以前の問題として、先代の頃からの仲居さんが辞めてしまって補充ができずにいるんだ。人手が足りなくて、日々その対応に追われているから、この先が見えてこない。将来、どうしたらいいんだろうね」

そんな悩みを打ち明けるオーナーの隣で、若女将が言葉を継ぐ。

「日帰りプランなど昼席ではパート、夜は仲居さんというふうに使い分けているんだけど、いろいろな媒体に募集を出しても仲居さんが、全く集まらない。古株の仲居さんたちは、先代の女将がそれこそ厳しく厳しく仕事を教えて来た人たちで、昔気質だから新しいことにトライしようとはしてくれない。毎日毎日同じことを繰り返すだけで、会議などをしても無駄」

「パートさんたちも、仲居さんの仕事をしたいとは思ってくれない。それと、パートさんたちと仲居さんたちを一緒に働かせると考え方の違いからトラブルになりそうで怖い。働き手をどうやって集めるかが、当面の経営の問題なんです」

オーナー夫妻の前で黙り込んでしまう。働き手がないから、と言われてしまったら返す言葉がない。

問題をマイナスからプラスへと解消していくことの提案は数多くしてきたが、働き手がいないから何もできない、と言われた経験がない。

宿の働き手をどのように集めるかでお悩みの宿も多いと思うが、喉元にいきなりその問題を突きつけられてしまうと、その後どんな会話をしていったらいいのか…。

宿専門スタッフの派遣会社もあるが、そこまで割り切って考えてくれそうもない。

この旅館は、温泉プラス料理、客室利用の日帰りプランと、部屋出し料理の宿泊プランで知られている。特に近隣からは日帰りの宿としてファンも多く、大立地は、都市圏から1時間以内にあり、小立地で考えれば自然環境に恵まれた地にあり、周辺にはライバル店もない。戦えるのだ。

働き手不足を解消するための施策として、こちらの新たな提案は食事処を造ることである。どこの宿でも考えることであるが今のところ他の方策はない。

今、その食事処でどんな料理でどんな演出をしていくのかというテーマでプランニング中である。流行のオープンキッチンを設置するというアイデアもある。全国の宿共通のテーマとして考えているが、答えはまだ出ていない。

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