【道標 経営のヒント 112】地産地消で造る旅館建築は地域を支える 佐々山 茂


 豊かで多様な自然に囲まれた農山漁村の風景は美しい。屋敷林(やしきりん)や山陰の石州(せきしゅう)瓦の家並みも風土や地域に根差していて美しい。

 しかし、車窓から見る住宅は車と同じような工業製品が大半だ。耐震性が要求され、省エネのため断熱性も高まり性能が良くなった。構造はプレカット工法が一般的になり、在来の軸組工法は時間と金が掛かり、技術者もいない。

 住宅メーカーがコストと性能を求めた結果、外壁はタイルを模したサイディング、屋根はカラーベストと皆同じような外観になっている。全てが既製品で構成されるので、品質は均一で性能は良いのだが、風土や地域性は配慮されない。

 旅館の設計をしていても手の込んだ和風建築をする機会が減っている。デザインの良い壁クロス、目を凝らさないと本物かどうか分からない塩ビ製の床材など、印刷技術が進み既製品の質がどんどん良くなっている。既製品を組み合わせてもそれなりの建築ができる。生活文化そのものといわれる旅館建築でも地域性が失われつつある。

 料理と同じように、建築も地産地消で組み立てると面白い。和歌山で車で2、3時間かけて山奥の製材所に行った。小さな製材所で在庫もそれほど抱えていない。必要な部材を示すと、150角の桧を見せてくれる。100角の柱よりも安いという。

 無節(むぶし)の柱は小さいうちから枝打ちをして節が表に出ないように育てる。150角ならば節が出ないが、削れば節が出てくる。流通に乗らない材料は質が良くても価格が安い。おいしいが曲がったキュウリと同じ理屈。同じ杉板でも木目の美しい板が1枚1枚選べた。

 工場を歩くと端材がたくさんある。東急ハンズに行けば結構な値段が付きそうな代物である。無垢(むく)材だと値段が上がるところを予算内に納めてくれた。いつも思うのは足で稼ぐといい木に当たる。無垢材で造った建築は年を経るごとに艶を増す。端材はカウンターの腰のモザイクとして生きている。

 少し前になるが、岩国の錦帯橋の架け替えで出た古材をオークションで購入して利用したことがある。50年前の材料で表面は風化しているが50センチ以上もある大断面の中身は木の香りがした。錦帯橋の棟梁にお願いしたら一度地組みをしてから足場の悪い現場で見事に組み上げてくれた。

 地元産の材料を探し、作り手の話を聞く。そして地元の大工などの技術者と交流することで、地域の建物づくりに関わる文化を知り、それを守ることにつながる。皆に愛される建築で地域の生活文化を支えよう。

 
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