【道標 経営のヒント 186】ラグジュアリーホテルの定義とは コンテンツキュレーター小倉理加


 タイは黄金の三角地帯と呼ばれる場所にあるリゾートを訪ねた時だった。客室のしつらい、料理、アクティビティ、ほほ笑みの国らしいホスピタリティとどれも申し分なく感動的。帰り際に、スタッフの1人に「まさに、ラグジュアリーリゾートにふさわしいonce in a lifetime(一生に一度)の心に深く残る素晴らしい滞在でした」と告げた。

 そうすると彼から、こんな言葉が返ってきた。

 「一生に一度ではなく、ぜひまたいらしてください。そのたびに、新しい発見があるように努力しています。私たちは、“生涯を通じて戻りたくなる場所”を目指しています」

 実際、滞在中に気付いたのはリピーターの多さだった。中には、このリゾートで出会って親睦を深め、その後2年に1度は、そこで一緒に休暇を過ごすようになったファミリーもいるという。ディナーの席も、大きなダイニングテーブルでゲスト同士が交流しながら食事を楽しめるような仕掛け。自然と気の合ったゲスト同士が見つかる配慮がされている。欧米人などは、日本人と違って滞在期間も長いのであいさつだけを超えた関係を築きやすいのだろう。

 国際社会ではシャイで知られる日本人にとっては、少しハードルが高いかもしれないが、“超”が付くラグジュアリーな世界ではこの社交的な要素が重要だ。その後、滞在したモルディブのウルトララグジュアリーとうたわれるリゾートでは、年末年始はその社交が目的の常連で満室になると聞いた。彼らの目的は、互いの子どもたちが交流して、将来ビジネスチャンスを広げることなのだそうだ。思えば私もオーストラリアのグランピングで知り合ったスイス人のカップルとその後、チューリッヒと東京で交流を持ち、仕事のアイデアをもらうなどした経験がある。ビジネスで1日か2日か宿泊するだけでのホテルとは異なり、貴重なバカンスで利用するような滞在先を選ぶ際には、何を大切に考えるかが色濃く反映される。ある意味、その選択を経て集ってきた場所で出会う人々は価値観を同じくしているので、気が合って然るべきなのかもしれない。

 先日、ある友人とおすすめのアコモデーションについて談じている時に、彼女が興味深い発言をした。

 「いいホテルはテンションが同じ人がいるところ。一人旅でも会話が盛り上がり、翌日一緒に観光に出掛けたりする」と。

 プライバシーは完全に守られながら、安心して国籍や世代を超えて交流できる環境がある。それこそ、ラグジュアリーホテルやリゾートの醍醐(だいご)味だと思う。せっかくなら、ふらっと出かけられる日本でそんな1軒をと東西南北、津々浦々出掛けているが、残念ながらいまだ見つけられていない。

 
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