会社の中にはマニュアル化されてない慣習が多々ある。社会人としての振る舞い方や暗黙のルールは、組織の中で習得していくのだが、中には奇習とも言えるおかしなものもある。
例えば、稟議(りんぎ)書のハンコの押し方。印鑑を押す枠が横一列に複数ある場合、通常は右端から順番に立場が低い者が押していく。だが、会社によっては、この「押し方」自体にもルールがあるらしい。筆者も最近知ったのだが、部下が右端に押印するときは「左斜めに印鑑を押す」のがマナーだという。これは、次に印鑑を押す上司に対し、お辞儀をしているように見せるのが狙いで、左端にいくにつれ、カクカクとハンコのお辞儀が続く。この習慣の是非は別として、もし、自社の押印欄に左斜めの印鑑が並んでいたら、それに倣うのが組織人としての心得と言えよう。
また、上司と乾杯するときのグラスの位置にも暗黙のルールがある。部下が上司のグラスに自分のグラスを合わせるときは、そのグラスを上司のグラスの口より下に合わせるのがルールだ。この光景は宴会でもよく目にするので一般的なルールなのだろう。大人社会では「ジブンは気にしないので」という言い訳は通用しない。誰も教えてくれないのであれば、自分で気付くしかないのだ。
そこで、社会に出る前に少しでも大人のルールを伝えておきたいと、「上司に食事をごちそうになったときの振る舞い方」を学生に伝授した。
お礼のタイミングは3回ある。1回目はテーブルで財布を出した際に「ここは、いいよ」と上司に制されたとき。一呼吸おいてから「ありがとうございます」とお礼を述べる。このとき、支払う素振りもせずにいきなり「ごちそうになります」というのはいただけない。形だけでも財布を出すのが大人の流儀だ。
2回目は支払いが終わって店を出たときに、店先で「本日は、ごちそうになりありがとうございました」とお辞儀をして感謝の気持ちを示す。なお、精算時に上司の後ろからレジをのぞき込み、金額を確認するのはご法度。
そして、3回目が上司と別れたあと。以前は、翌朝、上司の席に出向いてお礼を述べたものだが最近ではお礼のメールを送信するのが一般的だ。
言うまでもないことだが、お礼メールは遅くとも翌日の朝一までには送信するのが望ましい。ごちそうになったことへのお礼だけではなく、会話内容についても一言添えるのがポイントだ。
といったことを学生に丁寧に指導した後、学生を連れて食事に行った。しかし、いつまでたってもお礼のメールが届かない。しびれを切らしてこちらから「楽しいひと時でしたね」とメールを送信したら、冒頭に「こちらとしても楽しかったです」と一言。お詫びもお礼もなく「こちらとしても」とは。対等な物言いに絶句。