【道標 経営のヒント 238】中洲の灯が再びともるとき コンテンツキュレーター 小倉理加


 いよいよ待ちに待っていた6月がスタートした。緊急事態宣言解除とともに街が本格的に動き始め、梅雨の曇天の中、浮き足立った空気が漂っている。

 ただ、浮き足立った空気を手放しでは喜べないニュースが毎日飛び込んでくる。そこで気になるのは、多くの若者たちが夜の街で感染しているらしいという事実だ。休業要請に応じず、業務を行ったり、そこへ出入りしていた人たちは言語道断である。

 ただ、こういったニュースによって、宣言明けに万全の対策でお客さまを迎える準備を進めてきた店までも、偏見に満ちた非難の目にさらされることが危惧される。

 4月頭、緊急事態宣言発令のギリギリ前に、ある企画で博多を取材した。その時に、中洲一と呼ばれる会員制倶楽部を経営する女性と知り合った。顧客の6~7割が県外で、各界の著名人とも交流が深く、漫画にもなっているほどの有名人。じゃんけんに強いといえば、ピンとくる方もいるだろう。本当に格好よい女性で、中洲でも他店をまとめる中心として活躍している。

 彼女は、コロナが猛威を振るいだした頃は、マスクが高額で手に入りづらかったにもかかわらず、50枚6千~7千円ほどで購入して、来店してくれたお客さまに消毒液とセットで配った。休業を決めたのも早く、その間に多くの対策を行った。

 加えて、多くの店を救うべく、休業中のテナントの家賃を半額にするように交渉を図るなど、とにかく“中洲の灯”を消さないように、先頭に立って旗を振ったのだ。

 オイルショック直後に24歳でママとなって以来、今年で50年。バブル崩壊やリーマンショックでも不況を怖いと思ったことはないそうだ。それでも今回は違うと言う。

 「命とビジネスが背中合わせだから、今までのようにはいかない」。

 それでも、やれるだけのことをやって臨む。

 「リモート飲みも登場して、飲み方が変わるともいわれていますが、日本全国の盛り場は、ビジネスの上でも欠かせない存在です。6月の最初の2週間はストレスで多くの人が中洲にやってくる。その時に、金額は抑えながら、ぜひ今までとは違うサービスを作り出す努力をしてほしい。そうすれば、分かってもらえるはず。半年、1年かかるかもしれないけれど8月末には以前の活況が戻ってくると信じています」と呼び掛けている。

 文字どおり、夜の街にも、命がけで本気で戦っている人たちが大勢いるのだ。それを浮かれ気分や飲んだ勢いで警戒が緩み、自分たちが感染を広げるきっかけにならないように客側も注意が必要だ。

 そして、命を落としたり、経済的な理由で夜の喧騒を楽しめなくなった人が多くいることも忘れ去ってはいけない。

 
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