4月に入って高知を旅した。1年以上テレワークが続き、歩きながら考える性分でじっとしていられなくなった。
目的地は隈研吾氏の建築群のある梼原町。高知空港からレンタカーで2時間掛けて四万十川源流域にある山間の町に着く。「森・水・風・光」の自然エネルギーを生かしたまちづくりに取り組み、薪(まき)とペレット、小水力発電、ベルギー製の風力発電、太陽光発電、地中熱利用と一つ一つは小規模ながら脱炭素とエネルギー自給率100%を目指している。人口密度は全国平均の20分の1、東京の400分の1と1人当たりの面積が広く、森林率が90%を超えて水資源と木材資源が豊富にあることで可能なのだろう。
木の種類ごとに葉の色が違うので黄緑から深緑まで山はジグソーパズルみたいに彩られ、足元の草はシダ類から花をつけたものまでいろいろと混ざり、擁壁や排水路のコンクリートも種々の苔(こけ)で覆われ、生物多様性を実感した。隈建築以外でも地場の木を使った建築が多く、梼原川にかかる三つの橋は地場の木で造られている。地域の歴史文化を核として町の中心部を散策するコースがあり、歩き疲れて立ち寄った珈琲(コーヒー)専門店でのご夫妻のもてなしがうれしかった。
農林業以外にはこれといった産業がなく、外貨を稼ぐのは圧倒的な自然や地域文化を元手とした観光だと思う。再エネでエネルギーを自給して、余れば売って外貨を稼ぐのだろう。一つの目標にまとまることで潜在的な地域力が目に見えていると感じた。
雲の上ホテルで1泊して高知市に戻ると大手資本の街並みに合わない巨大看板が目につき、都会は決して文化的でない。
温暖化効果ガスの排出量の削減目標を2013年比2030年までに40~45%に引き上げる議論がされ、石炭火力発電の新設中止が報道されている。
都会の強みは情報が集まることであったが、コロナ禍で働き方が変わり、テレワークやワーケーションが話題になっている。今まで地方は大手企業の工場を誘致してきたが、創造的な仕事は自然の中が良いと、研究機関が地方に分散すると考えられる。都市と地方の役割が変わる中で、遊興型で発展してきた観光地にも新しい需要が生じると感じている。
東京では味わえないカツオのたたきを食しながら、都市と地方について思いを巡らせた旅でした。余談ですが高知で本当に行きたかったのは牧野植物園と内藤廣氏の一連の木造建築です。生き生きした植物たちと空間は5時間いても見飽きませんでした。