【道標 経営のヒント 313】トランスジェンダーと「浴衣の男女柄違い」 福島規子


 A旅館では、浴衣の図柄や下駄を男女別で変えている。男性には縞(しま)柄、女性には花柄の浴衣をそろえ、下駄も男性には藍色の鼻緒、女性には茜(あかね)色の鼻緒で小ぶりなものを並べる。そこには、男性は縞柄で藍色、女性は花柄で茜色といった、性差に対する社会的あるいは文化的な固定観念や偏見(ジェンダーバイアス)が潜んでいる。

 さて、今回はトランスジェンダーの話。トランスジェンダーとは「出生時に割り当てられた性別」と自分が認識している性別、いわゆる「性自認」が異なることを指す。

 トランスジェンダーはLGBTの一つとして語られることが多いが、T(トランスジェンダー)が「性自認」と「生物学的性別」によって区別されるのに対し、LGBは「性自認」と「性的指向」の組み合わせによって成立する。詳しく見ていこう。

 L(レズビアン)の女性:性自認は女性、性的指向も女性。

 G(ゲイ)の男性:性自認は男性、性的指向も男性。

 B(バイセクシャル)の女性:性自認は女性だが、性的指向は女性でも男性でも。

 B(バイセクシャル)の男性:性自認は男性だが、性的指向は女性でも男性でも。

 このように、LGBは「生物学的性別」と「性自認」は一致する。その上で「性的指向」を同性とするか、同性または異性の両方とするかがLGBの特徴である。

 一方、トランスジェンダーは「生物学的性別」と「性自認」は異なり、「性的指向」も人それぞれだ。

 たとえば、タレントのはるな愛さんは「出生時に割り当てられた性別は男性」だが、「性自認は女性」である。「恋愛対象は男性」と「性的指向」を明言しているので、彼女は「トランスジェンダーの女性」といえる。ただ、全てのトランスジェンダーが、はるな愛さんのように性自認に合わせた格好をするとは限らない。

 一方、マツコ・デラックスさんのように「性自認は男性」で「性的指向も男性」だが、女装をするゲイもいる。女装をしていても、彼は、トランスジェンダーではない。

 そこで、冒頭の浴衣の話。はるな愛さんのようにご本人の性自認が服装などによって明示化されている場合は、女性用の浴衣と下駄を用意しても問題ない。だが、明示化していないトランスジェンダーに対し、男女で色柄を分けた浴衣を提供することは配慮に欠ける。ほかにも宿泊カードの性別欄や大浴場の男女別などセクシャルマイノリティへの配慮が行き届いていない点は多々ある。

 多方面から知見を借りながら、旅館業界としての解を探っていきたい。

 
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