【道標 経営のヒント 314】日本一小さな蒸留所に香る、春 小倉理加


 年末、滋賀県長浜市でウイスキーの蒸留を体験する機会を得た。日本最小クラスの蒸留所をうたう「長浜浪漫ビール」が月に一度行っている1泊2日のワークショップツアーである。最後には、自分たちで蒸留したニューメイク(蒸留新酒)を持ち帰ることができる。

 1日目は、座学から始まり、マッシング(粉砕したモルトを糖化する作業)で出たドラフ(かす)をケトルという機械からかき出す作業と蒸留の体験へ。蒸留は、アランビッグ型と呼ばれるポルトガル製のブランデー用のポットスチルで行う。アルコールの純度を上げるため、2度の蒸留が必要だが、その際に大切なのは“ミドルカット”と呼ばれる工程だそうだ。再溜液は三つに分けるのだが、出始めと最後は雑味成分が多くなるので、それはうなぎのタレのように次の再溜に使い、樽(たる)詰めや瓶詰めに回す本溜を見極める工程を指す。経験から導き出した表を元に行う、緻密さと正確さが肝となる工程で味の決め手にもなる。

 ウイスキー好きならご存じかもしれないが、長浜浪漫ビールのウイスキーはすでに世界で認められている。海外のモルトウイスキーをベースに長浜蒸留所のモルトをブレンドした「アマハガン」はワールドウイスキーアワードで3冠を受賞。シングルモルトも、台湾、中国、フランスに輸出がされている。いくつか試飲をすると異なる樽で熟成された、魅力的な味わいが華やかな香りと共に口いっぱいに広がった。

 2日目は、モルトの粉砕、マッシングから始まり、蒸留したポットスチルの清掃、樽詰めを行った。再溜は、夜中にスタッフの方々が担当。樽詰めの前のニューメイクを試飲したが、スッキリと透明な味だった。これが樽の中で時間をかけて変化をすると個性ある味になるそうで、その個性が感じられるものがいいウイスキーになっていくと教えてくれた。

 ワイン樽が一番変化を感じやすいとのことだが、今回樽詰めしたのは山桜の樽。宮崎で洋樽造りを行う有明産業のものだ。ホースで樽にニューメイクを入れる音は、まるで雪解けの水が川に流れ込むような勢いのある音がした。

 最後に、同じ山桜に入れて2カ月ほどたったニューメイクを試飲させてくれた。「乳製品のような香りと山桜由来の春の香りを感じる」とスタッフは説明する。口に含むと、ニューメイクより少し優しく、暖かな季節への希望を感じるような幸せを感じる味だった。

 年明け、持ち帰ったニューメイクをハイボールにして、まだつぼみを持った寒桜を前に花見をした。数年後、同じ原酒が山桜の樹に抱かれて、長浜の地で熟成され、花開くのを想像しながらの豊かな年の始まりだった。

 
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