【道標 経営のヒント 334】“シノラー”の華麗なる変化 小倉理加


 先日、ある時計専門誌の取材で篠原ともえさんにお目にかかる機会を得た。最近では、「OMO7大阪by星野リゾート」の従業員の制服をデザインするなど、デザイナーやアーティストとして活躍されていて、いつかお目にかかりたいと思っていたので、とてもうれしかった。

 ちょうど、篠原さんがデザインを手掛けた革のきものの作品「ザ レザー スクラップ キモノ」が、世界的広告賞である第101回ニューヨークADC賞(THE ADC ANNUAL AWARDS)でシルバーキューブとブロンズキューブの2冠を受賞するという快挙を達成したことが分かった直後のことだった。

 この作品は、一般社団法人「日本タンナーズ協会」が日本の革文化や産業を伝えるために行ったプロジェクトの一つである。ユニークなのは、サステナブルな視点で作られていることだ。本来であれば、廃棄されてしまうエゾ鹿の革の端の曲線を、動物が暮らす山並みに見立てて、グラデーションにして何枚も縫い合わせた幻想的な1枚だ。

 「他でも、きもののデザインをさせていただくことになったとき、きものは無駄なく生地を使って捨てる部分がないことに感動した」と話す篠原さんは、洋服でもきもの作りの経験を生かしている。取材の際には、着用する時計に合わせて、自作の版画をテキスタイルにした四角い生地を余すところなくデザインに活用した素敵な衣装で登場した。残念ながら、洋服は自分が出演する際にお召しになるものしか製作されないそうだが、ブランドを立ち上げれば固定ファンがつきそうだ。

 もともと芸能活動をしながらデザインの仕事を並行して行っていた篠原さん。本格的にデザインと向き合うようになったのは、アートディレクターであるご主人と出会って、2020年に一緒に会社を立ち上げたことが大きいだろう。

 「40歳になるに当たってデザインに集中したいと決意。ものづくりをする上でのマナーとして、お仕事をお休みして学校で服作りを学び直しました」という謙虚さには、頭が下がる。先に挙げたニューヨークADC賞に関しても、「たくさんの人たちの力があって、成し遂げられたもの。チームで仕事をする楽しさや達成感は言葉にはできないほどの感動があります」と語る。

 そんな篠原さんの創作源には、いつもきもののお針子だった祖母の存在があるという。

 「祖母が遺してくれたきものの襟を解いてみたら、自分では太刀打ちができないような丁寧な仕立てと色彩センスが見られて衝撃を受けた」と目を輝かす。代々受け継がれてきた美の系譜が美しく開花する姿が、なんともまぶしく映った。

 
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