【道標 経営のヒント 351】宿のアイデアが収入を変える 宮坂 登


 円安で海外からの旅行客が増えている様子をニュースが報じている。コロナ禍で苦しんだ宿にとっては朗報。長らく逸していたビジネスチャンスを生かしてほしいものだ。

 この十数年は旅館・ホテルの仕事を承ることが多いが、それ以前は大手旅行会社の海外旅行トップブランド販売や年間デスティネーションキャンペーン企画運営のお手伝いをさせていただいた。広告制作に加え、旅行企画段階から参加させていただく機会も増え、多様化する旅行ウォンツに応えるべく、技能取得を目指す中・長期体験留学、中・高校生の海外修学旅行、海外大学との単位交換留学ツアーといったものも企画そのものからお手伝いした。

 栄えあるツアー・オブ・ザ・イヤーも2回いただいた。旅行企画の面白さや醍醐味(だいごみ)を知ったと同時に、ツアーが出来上がるまでの苦労や運営の難しさを痛感したのもそのときだったと思う。ツアー販売開始直後に担当デスクの電話が鳴りだして止まらない様子を見たときには心底感動したものだ。

 例えば、添乗員付きヨーロッパ周遊も有名都市を駆け足で巡るものが主流だった時代に、一つの都市にゆったり3連泊して街や暮らしの息づかいを楽しむツアーを現実化したときには大きな話題にもなった。旅行会社にバックマージンが入るブランド店での買い物や、固定化されたレストランでの食事などは一切廃し、裏路地のレストランで地元の人たちとふれあいながら割り勘で食事を楽しむ時間も組み入れたが、評判は上々過ぎるほどだった。

 そんな経験が端緒になって、ビスポーク(BESPOKE)をコンセプトとするオーダーメイドツアーのサポートの機会を得た。ビスポークとは、会話しながら旅行者の希望を組み上げていくオーダーメイドツアーである。

 例えば気球に乗ってイタリアトスカーナ地方の糸杉の大地を眺めるミニツアー、アフリカのサバンナでバトラー付き豪華テントでラグジュアリーな時間を過ごす旅、5つ星ホテル宿泊とファーストクラス移動を組み合わせた世界一周ツアーなどなど。富裕層ニーズに応えたツアーだが、旅行への憧れに際限がないことも知った。

 現在の海外からの旅行者増の様子を見て思うのは、彼らに円安による享受だけに終わらせてしまっていいのかという感覚である。旅館・ホテルにとってはインカムを増やす絶好の機会。日本の旅行事情で重視するのは「観光客数」より「観光収入」というではないか。宿のアイデア次第でまだまだ眠っている収入源があるのではないかと思う。

 
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