【道標 経営のヒント 358】サステナブル観光への願い 小倉理加


 今や、ラグジュアリー界はSDGsの取り組みについて待ったなしの状況だ。以前、この機運を先取りしたリゾートをカンボジアに訪ねたことがある。「ソン・サー・プライベート・アイランド」という名で、英国人カップルが、ハネムーンで訪れた離島に恋をして、その思い出の島に立ち上げたリゾートだ。

 島内の自然はできるだけ手つかずのままに残し、建物はボートの廃材をスタイリッシュにリサイクル。さらに、自然資源の保全と地域支援のために政府や環境保護団体などの専門組織とともにタッグを組んで事業を進めていた。リゾートの周囲を禁漁区域にし、近くの漁村と助け合いながら、カンボジアの未来を築く独自のコミュニティまで形成。「強制ではなく、教育して保護する意味を理解して、自発的に行動しない限り何も変わらないから」というのが夫妻の思いだ。彼らはリゾート設立と同時に迎えたカンボジア人の養子に豊かな未来を、という自分ごととしての切実な希望もあるのだろう。

 ほかにも他国の例を挙げればきりがないが、彼らの活動と比べると先進国であるはずの日本は随分遅れているように思う。その理由がいま一つはっきり分からなかったが、先日一つ気がついたことがある。某誌でSDGsの連載を持たせていただいていることもあり、資格取得のための講座で出会った一言だ。「SDGsで最も大切なのは”誰一人取りこぼさない”ということ」。コロナ禍ということもあり、日本での旅が増える中で感じた違和感は、シルバー層に冷たいことだったのだ。未来を担う子どもには優しいサービスが多く、ドッグフレンドリーも随分進んだ。それでも、高齢者層への配慮は他国に比べて足りないと思う。

 一人旅では気がつかないが、両親を連れた旅ではその差が歴然だ。台湾では、人気のレストランで行列の順番を繰り上げてくれたし、ヴェネチアでは、美術館でチケットを購入する際に両親が隣にいないにも関わらず、2枚がシルバー割引になっていた。「昨日、君たち家族を見かけたから」と教えてくれたスタッフの配慮に感動した。

 日本では、まずそういった心使いを受けることはない。若者に人気の場所はニュースになり栄えていくが、古き良きものはどんどんなくなり、最近は落ち着いたベテランの人が迎えてくれるホテルやレストランも減っているように思う。だが、間もなくやってくる2025年問題を見ても、後期高齢者がこれからはマーケットの主流になってくるはずだ。ぜひ、日本のSDGs観光の視点に、シルバー層への手厚いサービスを考えてほしい。新たな未来を築けるのは、人生の先輩たちのおかげであることを決して忘れてはならないのだ。

 
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