【風呂じまんの宿】湯殿も館も登録文化財の宿 新井旅館(静岡県・修善寺温泉)


天平大浴堂=昭和6年から3年の歳月をかけて建築。大きな岩盤は川より続く巨石

 修善寺温泉の中央に位置する新井旅館(相原昌一郎社長)は、時代を代表する文化人に愛されてきた純日本旅館。明治5年、「養気館新井」として開業。昭和10年代までに主要な施設が整えられ、現存する最古の建築である青州楼は、唐破風付きの城郭風建築で、六角塔屋を備え、修善寺温泉のシンボルとなっている。これらの歴史的価値が認められ、敷地内の建物15棟が国の登録有形文化財となっている。

 なかでも昭和9年築で法隆寺食堂などの建物を模写して造られた総檜(ひのき)造りの湯殿「天平大浴堂」はお堂のような高い天井と美しく精緻に組まれた木組みが圧巻。歴史画の大家、安田靫彦氏の設計で、様式、材質、技術全てに優れた名建築といわれる。台湾から運んだ檜の芯去り材を使い、浴槽の縁は伊豆石を刻み、柱石には20人がかりで1日15センチしか動かせない巨大なものを据えた。天平大浴堂を90年にわたって照らす燈火は、文化勲章叙勲者の香取秀真氏の作だ。


天平大浴堂=昭和6年から3年の歳月をかけて建築。大きな岩盤は川より続く巨石

 ほかにも、宿の歴史の端緒となった「あやめ風呂」、文豪、芥川龍之介がお気に入りだったという貸切風呂「翡翠」や、八角屋根を抱き、天平大浴場に用いられた檜のストックから八角湯淵を刻んだ「睡蓮」など多彩。これらはいずれも浴室内から池中のコイを眺めるという風流な仕掛けを擁している。また、昨年オープンした半露天風呂「折節の湯 雪花」も含め、全て天然温泉掛け流しで提供する。


睡蓮=家族用の「琵琶湖風呂」を改装。風呂底には名残石が残る。天平大浴堂に用いられた瓦や檜を使用するなど、過去から現代へ続く歴史を取り入れた意匠

 木造一部3階建てで客室数は31室。屋根付きの渡りの橋が、新井旅館の本館というべき「月の棟」と、その奥の宿泊棟とを連絡する。廊下は、床に小幅板を目透かしに貼って池の水流を見せる趣向となっている。

 料理は、新鮮な海山の幸に料理人が腕をふるう自慢の会席料理。季節によって献立が変わる。

 ▽静岡県伊豆市修善寺970。TEL0558(72)2007。https://arairyokan.net/


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