施策動員し、観光復活の足取り確かに
岐阜県の飛騨高山に観光客が戻っている。古い町並や高山陣屋などの観光名所には日本人や外国人旅行者の姿が目立ち、活気を帯びている。高山市の田中明市長と飛騨・高山観光コンベンション協会の堀則会長(ひだホテルプラザ)の対談を通して、アフターコロナ禍の飛騨高山観光の課題などを探った。聞き手は論説委員の内井高弘。(2月下旬、市役所で)
飛騨・高山観光コンベンション協会会長 堀 泰則氏(左)、 高山市長 田中 明氏(右)
――新型コロナウイルス禍も収束して、人の流れも活発になっています。
田中 2023年の観光入込客数は407万2千人、前年比32%増。宿泊者数は191万8千人で、同35%増。うち外国人宿泊者数は45万2500人、同1017%増となっています。コロナ禍前の19年と比べ、観光入込客数は86%、インバウンドは74%の水準まで回復してきました。
コロナ禍のダメージはありましたが、旅行者が戻っている今の状況をみると、迎え入れる気持ちが観光関係者、市民にしっかりと根付いていると改めて感じました。厳しい環境下でも、民間の方々がしっかりと投資、おもてなしをされ、腹をくくってやってこられた。これは高山の強みだと思います。
高山市長 田中 明氏
――いま観光予算はどのくらいですか。
田中 約14億円。総予算は約940億円ですから決して多いとはいえませんが、経済波及効果は金額以上で、観光はまさに高山の産業の基盤といえます。
堀 14億円のうち、パンフレットや宣伝など誘客事業に使っているのはせいぜい3億円程度にすぎません。もちろん額は大きいに越したことはありませんが、お客さまは地域の持つアイデンティティやコンテンツなどにひかれて来訪されると理解しており、その意味では必要なのは情報発信力だと思います。加えて、消費者のニーズをつかむマーケティングの精度を上げ、バランスよくマネジメントしていくことが大事です。
飛騨・高山観光コンベンション協会会長 堀 泰則氏
――人手不足の問題が深刻です。
堀 高山はいま旅館・ホテルの客室は4500ルームほどあり、5千に迫る勢いです。当然人手は不足気味で、どう確保するかに頭を悩ませています。コロナ禍で離職した人たちが戻っていないのが実情です。
市の総合計画のなかに、「多文化共生社会」という文言が盛り込まれていますが、外国人との共生は今後拡大していくことが想定され、われわれ観光業界も持続可能なまちづくりに向けてどのように協力していくべきか真剣に考えるべきです。市による市内事業者の外国人材雇用に対する支援もありますので、官民一体となって進めてまいります。
田中 外国人の就労機会をつくろうと、地元の短大で日本語学校を設立しようという動きもあります。また、北海道東川町に町立東川日本語学校があり、そことマッチングし、新年度から7人の学生さんが高山で働くようになりました。海外の人材を積極的に受け入れ、宿泊をはじめ、いろんな業種で働けるようにしたいですね。
――宿泊施設間で人の引き抜きなどは起きていませんか。
堀 増えているのはB&Bを中心とする施設で、人手をかけないため、引き抜きなどは起きていないと思います。
田中 高山という山間部のまちにホテルが相次いで進出、5千ルームもあるというのはそれだけ魅力があるということ。受け皿があるからお客さまも安心して旅行できる。観光インフラが整っていることであり、高山の強みの一つです。
堀 交通アクセスは決して良くありませんが、それでも年間400万人以上のお客さまに来ていただいています。そうした人たちにより満足感を与えるには「滞在型観光都市」としての魅力をつくる必要があります。いまは中心市街地の観光がメインですが、もう少しエリアを広げ、上高地や黒部立山、福井までを視野に入れた旅行というものを提案していきます。
26年春には中部縦貫自動車道(長野県松本市を起点とし、高山市を経て、福井市に至る延長約160キロの自動車専用道路)の福井県側が全線開通します。そうなれば永平寺まで1時間半ほどで行けるようになります。市と歩調を合わせ、広域観光のハブとしての立ち位置をしっかりつくっていきます。
――高山には飛騨高山ビッグアリーナ(収容人員4千人)や飛騨・世界生活文化センター(同2千人)など大規模施設が数多くあり、MICEの受け入れ態勢も充実していますね。
堀 MICEに関しては、残念ながら大学がありませんので、それに関連するMICE誘致は正直弱い部分があります。しかし、24年度には日本外来小児科学会の年次大会が開かれるなど、招致活動は実を結びつつあります。高山がもつポテンシャルの大きさと観光素材の素晴らしさをアピールしていきます。
――市の観光施策についてお聞かせください。
田中 観光産業は地域経営に資するもので、地域の課題もこれまで積み上げてきた観光手法を活用して解決できると考えています。そのためには民間業者に頑張っていただき、行政としてしっかり下支えする。民間が動きやすいよう、財源や人材を確保してそちらに回します。
――財源問題ですが「宿泊税」の導入も検討されているようですね。先ごろ、北海道が導入の概要を発表しましたが、今後、こうした動きは活発化しそうです。
堀 私どもとしては25年度の実現を目指し、DMOとしての協会がどういう立ち位置で対応していくのかも検討しています。
田中 いまがターニングポイントです。
――税収はどのくらいを見込んでいますか。
堀 仮にですが、税額200円として、3億5千万から4億円ほどになるかと。あくまでも想定であり、固まったわけではありません。ただ、人口減で財源不足が深刻化し、どう補っていくかの議論は今後増えてくるでしょう。その一つとして、宿泊税は議題に上ってくるでしょうね。
――税額も小さく、宿泊客からクレームが出てくるとは思えません。
田中 宿泊税を導入するのであれば、むしろ事業所には負担や手間がかかりますので、スムーズに作業が進むよう、そのへんはきちんと見ていく必要はあります。
堀 外国人にとって宿泊税は受け入れやすく、むしろ入湯税の方が理解されにくい。温泉ではないため入湯税をとらない宿泊施設もありますので、むしろ宿泊税の方が施設の足並みがそろっていいのではないでしょうか。
――3月16日には北陸新幹線の金沢―敦賀間が開業します。能登半島地震の影響もありますが、観光面にとってはインパクトが大きいと思います。高山にとってはいかがですか。
堀 それほど大きな影響はないのでは。むしろ中部縦貫道の方がメリットは大きいと思います。高山と福井を結ぶツアーバスが運行できるよう、関係方面に働きかけています。高山から永平寺の観光はこれまで考えもしなかったのですが、現実化しそうです。永平寺や上高地などが飛騨高山観光の一部になります(笑い)。
田中 福井県では、越前和紙や打刃物で有名な越前市は高山市の友好都市ですし、今年生誕500年を迎える戦国武将・金森長近がまちの基盤を造ったというご縁で、大野市ともお付き合いがあります。足並みをそろえ、観光面で何かできれば面白いですね。ワクワクします。
――インバウンドが戻り、オーバーツーリズムの弊害も出ていますが、高山にとっても欠かせない旅行者ですか。
堀 大きな存在です。現状、受け入れ態勢も十分ではありません。たとえば、飲食店。夜遅くまでやっている店が少なく、夜の観光に対応できていません。ナイトタイムエコノミーではありませんが、皆さんの協力を得て、何か手を打たないとだめだと思います。
田中 インバウンドの対応は手間がかかることです。言葉も違えば商習慣も異なる。食べ物にも気を使います。しかし、高山は外から人を受け入れるというDNAがあります。それを意識して、満足いただけるサービスを提供していきます。
高付加価値化といわれますが、体験型旅行もただ体験させればいいというものではありません。伝統や文化などを組み合わせた、これまでとは違うアプローチで企画、造成すべきです。
――アフターコロナに向けた、飛騨高山観光の在り方は。
堀 キーワードの一つは多文化共生社会の実現。もう一つはMICE。
田中 抽象的ですが、深い地域性、深い伝統、深い文化など、そういったものを深掘り、高付加価値として提供する。特別な気持ちで旅行をしていただけるよう、官民一体となって取り組みます。
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