日本料理とは何かを正しく知っている人は意外と少ないのではないだろうか。いわゆる「和食」というのは家庭料理から割烹料理までを含むが、「日本料理」というと、板前が作って料理屋で出す料理のことを指す。
さて、日本料理を賞翫(しょうがん=味わうこと、賞味すること)することができるようになるためには、基礎的な知識を持つ必要がある。料理は食べておいしければそれで十分であるが、おいしい、おいしくないということは、個人的な嗜好の問題で、個人差があり、普遍性のあるものではないからだ。
特に料亭の場合には、単に食べ物だけが対象になるわけではなく、食を中心とした食空間全体を含めて評価されるべきものである。従って、口に入る食べ物だけがおいしければいいという問題ではない。
おいしければどんな器でも構わない、というものではないので、そこに器やお座敷飾りというのか、床の間のお花、掛け軸、庭、接遇のあり方、作法などたくさんの条件が含まれてくる。料亭とはそういうところなので、お客さま側にも思いやりを持った作法というのか、素養があるといいと思う。
「料亭、料理屋は文化の担い手」だと思っている。どうかお客さまには、お店に一歩足を踏み入れた時から玄関を出る時までのもてなし全体を、トータルファッションとして見ていただきたい。
もてなしの最たるものは「心」。もてなす側の心意気を見、その美学を感じ取っていただければ、われわれ料亭は、商売冥利に尽きるというものだ。
(国際観光日本レストラン協会理事、料亭洲さき 洲岬孝雄)