DREAMS COME TRUE(ドリカム)の「晴れたらいいね」「ALMOST HOME」のメロディが特急列車の到着を知らせるJR池田駅。メンバーの吉田美和さんの故郷という縁からで、町のシンボルである「いけだワイン城」の敷地内には、ドリカムと池田町が共同管理するブドウ畑「DREAMS COME TRUE VINEYARD(通称「ドリカムブドウ園」=写真)」もあり、オリジナル品種「山幸」が栽培されている。町内の中学生が収穫し、醸造されたワインは、彼らが新成人となる成人式で贈呈されるなど、ワインと池田町、ドリカムの絆は強い。
池田町で、自生する山ブドウ由来のワインづくりを発案した丸谷金保町長(1919~2014)により、自治体初の公営ワイナリーが設立されたのは1963年、それ以降は苦難の連続だった。山ブドウは、糖度は高いものの酸味が強く、生まれるワインは「野性的で力強い味」と評され、フランスや米国で作られるワインとは趣向がかなり異なる。寒冷地のため、シャルドネなど日本でも栽培されているワイン用ブドウ(欧州系ヴィニフェラ種)が育たない。寒冷地でも育ち、欧米のワインブドウに近い品種を開発するため、池田町では2万種以上のブドウの品種交配を重ね、「山幸」が生まれた。2021年には、仏に本拠を置く「国際ブドウ・ワイン機構(OIV)」の登録品種となった。日本では甲州、マスカット・ベリーAに次ぐ3種目の”快挙”と池田町では説明する。
「ワイン城」では白、赤、ロゼなどさまざまなワインが製造・販売されている。年間来場者数は2024年見込みで26万人、30~40%が台湾を中心とした海外からという。外国人観光客は、10数年ほど前から増え始めたといい、温暖な気候のアジアから、雪や広大な景色に憧れ、北海道・道東エリア周遊の一環としてワイン城に立ち寄るケースが多いようだ。「最初はワインに対する関心は低かったのは事実。最近は有料試飲コーナーで独自品種のワインの飲み比べをするお客さまが増え、購買意欲も高まってきた点で、傾向は国内の旅行者の方々と変わらない。日本でも地域ごとにいろんなワインがあってよいはず」と安井美裕町長。
池田町に自生する山ブドウは、ロシアのアムール川流域に自生した「アムレンシス系」であることが分かっている。「ブドウの野生種が多かったアジアやロシアでは欧州に比べ今後、山ブドウ由来のワインが飲まれるようになる可能性はあるかもしれない。SDGsの観点から、ワイン業界にも、その土地固有の品種を掘り起こそうという機運がある。日本にしかない、北海道にしかないというアピールはあっていい」と、作家で、長野県東御市でワイナリーを経営する玉村豊男さんは話す。その土地でしか飲めないワインに価値を見いだしてくれる、インバウンドの誘致が課題となりそうだ。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)、「駅メロものがたり」(交通新聞社新書)など。
※観光経済新聞11月18日号掲載コラム