イトーヨーカドー春日部店(埼玉県春日部市)が11月24日に閉店、52年の歴史に幕を閉じた。かつて食料品から衣料、日用雑貨まで何でもそろい、多くの家族連れでにぎわったスーパーマーケットの斜陽化には歯止めがかからず、親会社のセブン&アイ・ホールディングスの事業再構築の一環だ。だが最終日はかつてのにぎわいを取り戻し、全国ニュースでも取り上げられるほど注目された。これは同店が、春日部を舞台とした人気ギャグマンガ「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパー「サトーココノカドー」のモデルだったからだ。原作者の臼井儀人さんがこの地に長く住んだ縁があった。
本家のシンボルマークが「ハト」なのに対し、「サトーココノカドー」は「コウモリ」である。店内には特設コーナーが設けられ、雑貨や衣料、菓子などの関連グッズが飛ぶように売れ、中でも「ココノカドー」記念キーホルダーが早々に完売し、追加注文を受け付けるほどの人気だった。作品中の架空の店がこれほどの人気を見せるのは珍しい。2017年には一時的に看板を「ココノカドー」に代えるイベントも行っており、地域に密着してきた結果なのだろう。
最寄り駅である東武鉄道春日部駅の発車メロディはアニメ版テーマソング「オラはにんきもの」で、2018年10月から採用され、ホームや駅構内にはあちこちにキャラクターたちが顔をのぞかせる。同市は「しんちゃん」の野原一家を特別住民登録し、「子育て応援キャラクター」「まちの案内人」としてプロモーションに活用、市役所では10月までに新しいモニュメントがお披露目された。駅東口の観光案内所「ぷらっとかすかべ」には大型看板に関連グッズ、資料などが展示されている。人気はアニメや映画が公開されている中国や韓国などアジアでも高く、ファンが「ゆかりの地」として頻繁に訪ねてくるという。市では、ゆかりの地や関連グッズ販売店などを回る「おでかけMAP」を日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語で作成している。
こうした工夫が功を奏し、市によると街を訪れる観光客数はコロナ前をしのぐ勢いで増え続けており、住民の転入者数も20~40歳代の子育て世代が増加、「令和元(2019)年度から転入者数が転出者数を上回る社会増の状況にある」という。2025年は原作の連載開始から35周年、母みさえの故郷である秋田県、父ひろしの故郷である熊本県と埼玉県を「家族都市」としてつなぐ企画もあり、「しんちゃん効果」はまだまだ広がりそうだ。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)、「駅メロものがたり」(交通新聞社新書)など。
(観光経済新聞2024年12月16日号掲載コラム)