
ビックカメラ池袋本店
JR池袋駅では、家電量販店「ビックカメラ」のテーマソングが、山手線ホームの駅メロとして2024年3月1日から採用された。秋保徹社長は初日に池袋駅で開催された記念式典で、「創業以来、半世紀近く店を構える池袋駅で弊社のテーマソングが流れるのは非常に感慨深い」と述べていた。1978年創業で東京・池袋に本社を置くビックカメラにとって、駅メロは長年の夢で、豊島区とパートナーシップ提携を結ぶなど「地域発展にずっと尽くしたいと考えていた。SNS等で多くのお客さまに反響を頂いており、おおむね好意的に捉えて頂いている」(広報)という。
JR神田駅のアース製薬「モンダミン」に次ぐ商業利用の一環で、「ビーックビックビックビックカメラ」のおなじみのメロディーは、池袋の雑踏にすっかりなじんでいるように見える。このメロディーには歌詞があり、以前は店舗のある各地域で、その土地ゆかりの話題を入れるなどしていたが、2023年7月に池袋をイメージした内容に統一していた。近隣の西武池袋本店には家電量販店大手のヨドバシカメラの新業態が2024年6月に出店、それに先んじて、「池袋はビックカメラの街」とのイメージを定着させようとした、との見方もある。
この「駅メロ」の商業利用、JR東日本においてはあまり進んでいないようだ。実際の相談はあったようだが、金額など条件面で折り合わなかったとみられる。いっぽうJR東日本では、首都圏の主要路線でワンマン運転を開始するのにともない、メロディーを流すホームのボタンを押す車掌が不在となるため、電車の発車時に運転士が共通の音楽を流す方式に切り替える方針と伝えられている。3月15日にワンマン運転となるJR南武線では「駅メロ」が姿を消す方向で、惜しむ声が上がり始めた。
同様のケースはJR茅ケ崎駅でもあった。茅ヶ崎市出身の桑田佳祐さん率いるサザンオールスターズの「希望の轍(わだち)」が流れることでも有名な駅だが、地元の要望により、湘南サウンドの元祖でもある加山雄三さんの「海その愛」が相模線のホームで一時的に使われた。相模線の開業100周年と、加山さんの芸能活動60周年を記念したもので、地元商工会議所が実現を働きかけた。2021年9月から採用されたが、相模線のワンマン運転化で2022年3月に終了、今も惜しむ声があるという。
ワンマン運転化は時代の流れなのかもしれない。だが日本独自の鉄道文化である「駅メロ」が何らかの形で残せるのかどうか。仮になくなっていくのだとしても、その土地でメロディが人々の心に残るような仕組みを作ってほしいと願う。ある読者からはJR仙台駅で流れる「青葉城恋唄」の記念碑を駅に作ってもらえないか、という手紙を頂いた。駅メロをきっかけに、そんな取り組みも進んでよいのではないかと思う。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)、「駅メロものがたり」(交通新聞社新書)など。
ビックカメラ池袋本店
(観光経済新聞25年3月17日号掲載コラム)