【駅メロ とわずがたり 20】JR桃谷駅 歌い継ぐ「酒と泪と男と女」 藤澤志穂子


 JR大阪環状線の桃谷駅のかいわいは商店がひしめき、コリアタウンにも近い、庶民のパワーがあふれる街だ。この駅では、「酒と泪(なみだ)と男と女」が2015年3月から発車メロディに使われている。シンガーソングライター、河島英五さん(1952~2001)が1975年に発表したこの曲は、酒を飲まずにいられない男と女のやるせなさを歌っている。清酒のCMで使われ、五木ひろし、ちあきなおみ、八代亜紀など数多くの歌手がカバー、サッカー選手のラモス瑠偉さんや、元横綱の朝青龍もファン。その後もEXILEのATSUSHIや竹原ピストルが歌い、カラオケでも男女問わず楽しむスタンダードとなっている。酸いも甘いもかみ分けた、人生の真理を語るような歌詞と、優しく包み込むメロディは「企業経営者の方々にも人気だそうです」と長男の翔馬さんは言う。

 実際は河島さんが18歳の時、法事の席で親戚が飲み食いする様子を見て書いた曲だった。河島さんは東大阪市で町工場を経営する家に生まれており、子供のころから見てきた庶民の風景やひと模様が、知らず知らずのうちに織り込まれたのだろうか。

 駅のメロディへの採用を「父は喜んでいるはず」と翔馬さんは言う。「この歌がすごいエネルギーを持っていることを父はよく分かっていました。アルバムには必ずこの曲を入れて、売り上げを伸ばそうともして(笑)。『作った自分のことは忘れられてもいい。この歌がずっと残っていけばいい』とよく話していました」。発表から50年近く、河島さんが亡くなって20年以上がたつが、カラオケの印税収入が下がる気配がないともいう。

 生前の河島さんは、JR桃谷駅に近い場所でライブハウス「Bee House」を経営していた。今は経営者は代わりカラオケバーとなっているが、建物は当時のたたずまいのままであり、面影をのこす「ハチ」のネオンが外壁に残る=写真=。中に入ると、木目を基調とした2階建ての純喫茶のような構造だ。「2階がステージのように使われて、河島さんはよく上がって、ギターの弾き語りをしていたそうです」と現在の店主が言う。

 ライブハウスは、音楽グループ「憂歌団」の木村充揮さんから河島さんが引き継いだものだった。いつしか若いミュージシャンの卵たちが集まり、店でアルバイトをしながら演奏をする場所となった。無名時代の押尾コータローさんがその1人であったことはよく知られている。押尾さんは後に河島さんを「人生の師匠」だったとテレビ番組で語っている。「僕ら姉弟も働いていました。押尾さんは当時も今も、僕らのお兄ちゃん的な存在です」(翔馬さん)。河島さんは後輩思いで、面倒見がよかった。病床でも若いミュージシャンたちが見舞いに来ると「歌ってみ」「新曲あるか」と聞いてはアドバイスしていたという。

 ※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。

 
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