【駅メロ とわずがたり 20】JR目白駅 「銀鈴の塔」が奏でる「赤い鳥小鳥」 藤澤志穂子


 目白は、学習院や川村学園、日本女子大など擁する文教都市として広く知られている。だが、大正デモクラシーの時代、児童文学誌「赤い鳥」を主宰した鈴木三重吉の自宅兼仕事場があり、その近くに教育者の羽仁吉一・もと子夫妻が設立した自由学園があったことを知る人はそう多くない。当時の自由闊達(かったつ)な文化が受け継がれているからか、地域を守りコミュニティを盛り上げていこうという機運が強い。その一つが、駅の中央改札を抜けると聴こえてくる童謡「赤い鳥小鳥」(北原白秋作詞、成田為三作曲)のメロディだ。駅前に設置されたバリアフリーの昇降機「銀鈴の塔」=写真右=が1日5回の定時に、鐘の音とともに奏でている。てっぺんにある「銀の鐘」がシンボルだ。

 「銀鈴の塔」は豊島区と地域住民との協議で2020年3月に設置された。目白駅は1922年、線路の上に駅舎が設けられた日本で初めての駅(橋上駅)で、構造上の理由から、駅の反対側との通行は、敷地外のらせん状の階段「銀鈴の坂」を、ぐるっと大回りするしかなかった。「銀鈴」とは、付近で湧き出ていた湧水をイメージした愛称だ。ただ、やはり通行者の負担は大きく、豊島区が昇降機の設置に乗りだす。地域住民との協議で「銀鈴の塔」と名付けられ、「赤い鳥」に掲載された「赤い鳥小鳥」を流すこととなった。音源は、目白にキャンパスを持つ東京音楽大学が担当。編曲・制作、演奏は同大の難波弘之主任教授らのチームで、緑豊かな目白の街のイメージに合うよう、鐘の音から始まる2種の序曲に続き、春夏秋冬に合わせた4種のメロディを制作した。昇降機は自転車や車いすの通行者を含め住民に絶え間なく利用され、メロディとともに地域に溶け込んでいる。

 鈴木三重吉の旧宅は所有者が何回か代わり、現在は「ギャラリア赤い鳥」という貸しスペースになっている。主宰する井汲典夫さん・春江さん夫妻がこの地に来たのは2015年、千葉県習志野市にあった自宅が東日本大震災による液状化現象で住めなくなり、移転先を探して紹介された先がたまたまここだった。前の所有者が経営していた画廊を引き継ぐ形でオープン。画家でもある典夫さんがデザインしたキャラクターは「赤い鳥」、目白にちなんだ鳥の「メジロ」を赤い色にした。刺しゅうや工芸の教室、個展を随時開催。地域のつながりを大切にしたいという夫妻は「これもご縁ですね」とほほ笑む。

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