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宮治淳一さん
サザンオールスターズのデビュー45周年の2023年、多くのファンが待ち望んでいた、リーダー桑田佳祐さんの故郷である茅ヶ崎での凱旋ライブが10年ぶりに実現した。2000年、2013年に続く3回目、今回4日間にわたる公演の最終日、10月1日のオープニングで桑田さんが真っ先に言及したのは「茅ヶ崎FM、本日開局おめでとうございます」という祝辞だった。そして音楽評論家で、サザンの名付け親としても知られる宮治淳一さんにもエールを送った。宮治さんは桑田さんの市立小・中学校の同級生でもあり、茅ヶ崎FM(EBOSHI RADIO STATION、通称エボラジ)のメーンパーソナリティーの1人である。
「神奈川県はあちこちにコミュニティFMがあるけれど、茅ヶ崎には不思議となかった。そのことを桑田さんに数年前に話したら、あちこち働きかけてくれて、普通なら準備期間に数年かかるところを、1年半で開局にこぎつけた。45周年と凱旋ライブも意識していたのではないかな」。
茅ヶ崎FMの運営会社には、サザンが所属する大手芸能事務所アミューズや、著作権管理会社であるタイシタレーベルミュージックも出資している。地域のコミュニティFMに大手芸能レーベルが関与する例は極めて珍しい。桑田さんの思い入れは強く、10月1日の放送開始にメッセージを寄せ、サザンの曲が流れるプログラムが続いた。
コミュニティFMの本分の一つは、災害時の緊急連絡の確保にある。「そうした時に真っ先に聞いてもらうためにも、普段のプログラムを充実させたい」と宮治さん。音楽評論家として山下達郎さんら多くのミュージシャンの知己を持つ、宮治さんならではのオリジナル番組も企画しているという。
桑田さんは自身のラジオ番組で、たびたび「茅ヶ崎愛」について発言している。4日間のライブ期間中、地域では商工会議所を中心に、二つの市民企画が行われた。一つは会場の茅ヶ崎公園野球場まで徒歩10分ほどの「サザンビーチちがさき」でのキッチンカー出店。風によって球場のライブの音が流れてくるビーチでは、チケットを入手できなかったファンも集まった。もう一つは、JR茅ヶ崎駅から会場までの途中にある住宅街の緑地に設けられた休みどころだ。地域産品の販売と、仮設トイレ、ゴミ箱が設置された。4日間で延べ7万5千人がおとずれたが、特段の混乱はなかったという。
「サザンの聖地」という表現に、宮治さんは苦笑する。「茅ヶ崎が音楽に縁が深いのは、もともと米軍基地があって、加山雄三さんをはじめ、ミュージシャンが育つ土壌があったから。ほんとうはそんなミュージシャンの卵たちが舞台に立ち、演奏の腕を磨いて巣立っていけるような、本格的なライブハウスがあるといいんですよね」。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。