【駅メロ とわずがたり 27】JR水沢江刺駅 松本隆さん、今も続く固い友情 藤澤志穂子


 東北新幹線・水沢江刺駅のある岩手県奥州市は、米大リーガーで結婚を発表したばかりの大谷翔平選手の地元として知られる。いっぽう音楽ファンの間ではミュージシャン大瀧詠一(1948~2013)の故郷として知られ、代表作「君は天然色」(作詞:松本隆、作曲:大瀧)が駅の発車メロディに2020年10月から採用されている。実現を後押ししたのが、作詞した松本さん=写真=で、その思いを聞いた。

 松本さんと大瀧、細野晴臣さん、鈴木茂さんは、1970年代前半に活動した音楽グループ「はっぴいえんど」のメンバーだ。大瀧以外の3人は東京の山手出身。大瀧には自分だけが「地方出身」というコンプレックスがあったのかもしれない。そのせいか、故郷についての発言はほとんど残っていない。「秘密主義で、小・中学校、高校時代や家族の話は聞いたことがない。いま僕が彼の話をするのも『余計なことしやがって』と怒ったかもしれない。照れ隠しなのか本心なのか。でも『駅メロ』は『故郷に錦を飾る』という感じで喜んでくれているのでは」。

 「はっぴいえんど」の曲は、松本さんの詞が先にでき、後からメロディをつけていく形で制作された。主導権を握るのは先に作った方だ。それに大瀧は不満を募らせたのか「松本なんかいらない」とけんか別れになり、ソロ活動を本格化させる。だがヒットが出なかった。レコード会社を移籍し、起死回生の第1弾を制作することになり、没交渉だった松本さんに作詞を依頼する。「メロディが入ったカラオケ状態のテープが『どさっ』と来ましたね」。曲に詞をつけるという、「はっぴいえんど」とは逆のパターンだ。

 当時の松本さんは妹を病気で亡くしたばかりで、詞を書ける心境になかった。「渋谷の街が本当に真っ白(モノクロ)に見えた。眼医者に行った方が良いかとも思った」ほどの傷心。「彼に『他の作詞家を探して』と電話したんだけど、『松本じゃないとだめ、できるまで待つ』とすごく強く言われて。それならと半年、待ってもらった。発売は1年くらい遅れたはず。レコード会社のディレクターが、僕と一緒に太田裕美(「木綿のハンカチーフ」を作詞)さんを担当した人で頑張ってくれて」。

 それが1981年発売の大ヒットアルバム「A LONG VACATION」だ。「君は天然色」は、「妹の死という僕のプライベートを彼に押し付ける気はなく、妹よりも元気な女の子をイメージし、普遍的なラブソングに聞こえるようにした。でも感動してもらえるのなら、大事な人を亡くした後、という僕の実体験も影響していると思う」。

 大瀧と松本さんの関係は「けんかしても解散しても、友情は揺るぎないものだった、例えて言えば東京タワーのような」。固い友情は、今も続いている。

※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。

 
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