地方への訪日誘客促進 新たなスタート地点に
――19年はどのような年だったか。
「19年は、訪日外国人旅行者数4千万人の目標を掲げる20年の前の年で、その実現に向けて一生懸命に取り組んだ年だった。ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会では、出場国からの訪日客が大幅に増え、試合の開催地やキャンプ地の歓迎ぶり、日本各地の魅力が世界に発信された。2~3週間滞在し、試合観戦だけでなく、各地を観光した方もいる。周囲の人たちにも日本の魅力を拡散してもらえたと思う」
――近年、欧米豪からの誘客に注力してきたが。
「訪日外国人旅行者数の75%程度は、東アジアが占めている。加えて東南アジア、インドからの訪日旅行者数も増えてきた。アジア市場は引き続き重要で、さらに誘客を強化していく。その一方で欧米豪の構成比は15%に満たない。欧米豪の観光客は滞在期間が長く、消費も高額になる傾向にあり、地方創生、地域活性化への波及効果も大きい。旅行先としての日本の認知度を上げるグローバルキャンペーンなどに取り組んでいるが、ラグビーW杯は欧米豪市場に対する一つの刺激になったのではないか」
――欧米豪市場を念頭に全国から体験型コンテンツを収集・活用する事業も実施した。
「全国の自治体やDMOに依頼して約2100件のコンテンツを集めた。外国人有識者の意見などを参考にストーリー性に優れ、英語対応が整備され、すぐにプロモーションに活用できるコンテンツとして300件を選んだ。このうち代表的な100件を掲載した英語パンフレット『100 EXPERIENCES IN JAPAN』を作成した。この事業に際し、職員が各地に出向いてDMOや自治体の担当者と意見交換できたことも、JNTOにとって大きな財産になった」
――19年は韓国からの訪日旅行者数が大幅に減少した。
「両国間には政治的な問題はあるが、日韓双方の観光業界は、民間交流、人の往来は互いの国を理解する上で重要という認識を共有できている。JNTOはできる部分から韓国向けの訪日プロモーションを実施しているが、状況が好転すれば、韓国の航空会社や旅行会社との共同広告なども本格的に再開させる」
――19年は前年に続いて自然災害が相次いだ。
「JNTOとしては外国人旅行者の安全、安心を確保する情報提供をどうするかが課題。18年の災害を教訓に政府が緊急対策を打ち出し、JNTOは多言語コールセンターの365日・24時間化、アプリやSNSでの情報発信の強化などに取り組んだ。SNSではツイッターに加え、19年の秋には中国人客への対応としてウェイボーの公式アカウントをJNTO本部で開設した。閲覧数の増加など一定の成果は見られた。しかしながら、こうしたツールの存在が訪日観光客の方々に十分に知られているかというと、まだまだだ。周知には不十分な面があるので、外国人旅行者には日本に着いたら、まずはJNTOのアプリをダウンロードするよう、呼び掛けを強化していかなければならない」
――20年は4千万人の目標年次で、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックが開催される。
「4千万人の目標に向かってとにかくがんばる。東京五輪・パラリンピックは、多くの国から観戦客がお越しになり、日本を世界にPRするチャンスだ。ただ、大会期間中には、宿泊費などの高騰、観光スポットの混雑を懸念し、観戦客以外の観光客が訪日を敬遠する可能性もある。ロンドン五輪でも開催期間の英国の外国人旅行者数は減少したというデータがある。地域、時期の分散が重要だ。20年に日本に来てもらえれば、普段見られない観光資源が見られるとか、体験できるとか、特別な魅力を提供するキャンペーンが有効だと考えている。自治体やDMO、運輸局などに特別なプログラムを検討してもらっている」
――五輪関係以外で4千万人達成の鍵となる施策は。
「ゴールデンルートへの集中を緩和し、もっと多くの方に地方を訪れてもらう。特に『アウトドア』の観光資源に関してはラフティング、サイクリング、トレッキング、ダイビングなどインバウンドに十分に生かされていないプログラムが地方には多くあり、体験を通じたコト消費を促進できる。地域との連携やデジタルマーケティングを強化し、地方への誘客を促進していく」
「プロモーションの実施体制では中国の広州に事務所を開設し、海外事務所数は22になった。今後、中東のドバイ、中米のメキシコシティに新たな事務所を設置する予定だ。国の訪日促進の重点市場も今は20市場だが、事務所開設に伴いメキシコ、中東地域が追加される方向となっている。戦略的なプロモーションで新たな市場も開拓していく」
「もう一つのJNTOの使命として、MICEの誘致促進がある。MICEの参加者は消費額が高く、情報の発信力もある。政府の目標『アジア・ナンバーワンの国際会議開催国として不動の地位を築く』の実現に向けて各都市と連携を緊密にしていく」
――2020年をどのような年にしたいか。
「20年は到達点であると同時に、新たなスタート地点でもある。4千万人の次には6千万人の目標がある。訪日旅行消費額の20年の目標は、旅行者1人平均20万円の支出で8兆円。現状から大幅に伸ばさないと達成できないが、多くの旅行者が地方を訪れ、そこで消費してもらうことこそが大切だ。『観光立国』を掲げ、訪日外国人旅行者数の目標に1千万人、2千万人を掲げた当時、そんなにいくのかという反応もあった。『観光先進国』の実現に向けて4千万人、6千万人の実現を目指すが、後で振り返った時、20年が文字通りスタートの年だったと言われるような成果を上げたい」
(聞き手・向野悟)
清野理事長